上 下
77 / 535

ここの世界の人達にとってはそれが『当たり前』なんだよな

しおりを挟む
この世界において私は<異端>だ。それはもう疑いようもない事実だと思う。価値観も感性も発想も何もかもが違う。そんな私がこの世界で生きていくのは、正気を保つことさえ難しい話じゃないかな。

だけど私は、出逢いに恵まれた。

ネローシェシカに守られ、アウラクレアに励まされ、メロエリータに諭され、辛うじて正気を保つことができた。『この世界は私の生きてきた世界とは違う』という現実を受け止めるだけの余裕を与えてもらえた。

奴隷が人間として扱われない世界だということを。

理由さえあれば子供だって簡単に殺して構わないという考えが当たり前のこととして定着してる世界だということを。

人間を人間として扱わないということは、理由さえあれば人を殺していいということは、翻ってそれが自分にも降りかかってくるのを認めなくちゃいけないという話なんだって、この世界のどれだけの人が覚悟できてるんだろう。

体制側がそういうのを推奨するから、『人を人として扱わない』『理由さえあれば人を殺していい』という発想が常識としてまかり通るんだっていうのに気付くまで、これからまだ数百年を要するんだろうな。

しっかりとした統計が取れてないから概算になるそうだけど、ファルトバウゼン王国でさえ、殺人の件数は、人口比率で言うと平成の日本の実に二十倍に当たるらしい。明らかになってないものを含めたらそれこそ更にその数倍になるかもしれない。

人を騙しただけで家族全員が磔刑に処されるのが分かってるのに、殺人は問答無用で磔刑または絞首刑になるのが分かってるのに、殺すんだ。だって、『理由さえあれば人を殺していい』と思ってるから。体制側がそれを推奨してるから。そして、体制側は『自分達が法律なんだから当然』と思ってて、平民の側は『ばれなきゃいい』って思ってるから。実際、警察機構がまだまだ未熟だから逃げ延びてる例も多いらしい。

『敵は殺す』『ムカついたから殺す』『気に入らないから殺す』『とにかく理由をこじつけて殺す』。それがまかり通る世界なんだ。

しかも貴族や王族の人間が殺人を犯しても、何だかんだで恩赦が出ることが多いのに比べて、平民はカボチャ一つ盗んだだけで絞首刑になることがある。まったくバランス感覚が成立してない。

でもそれも、あくまで私が向こうの世界の人間だったからそう感じるだけで、ここの世界の人達にとってはそれが『当たり前』なんだよな。『殺す理由があるのに殺さないなんておかしい!』って考えてるんだ。

自分や自分の家族を殺されることは嫌がるのに、他人や他人の家族を殺すのは平気なんだ。本当に<些細な理由>で。他人が勝手に自分のことを<敵認定>して殺しに来るかもしれないのに、『敵はとにかく殺すべき』と考えてるんだ。わざわざ他人に<自分を殺しに来ていい理由>を与えてるんだよ。

そして、他人に<自分を殺しに来ていい理由>を与えておきながら、『自分や家族を守る為には殺される前に殺さなきゃ』って考えるんだ。

なんというおぞましいマッチポンプ。

だけど現時点で私一人がそれを訴えても仕方ない。それをおかしいと感じる人が増えてこない限り世の中は変わらない。

それも分かってる。

それでも私はこの世界で生きていかなきゃいけない。自分の命を全うするんだ。

私の周りの人を大切にしながらね。

ただ、今は、無性にアウラクレアに会いたいよ。彼女の柔らかくてあたたかい胸に包まれて癒されたい。

そうして私達は、予定されていたすべてをこなして、ファルトバウゼン王国への帰路に着いたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話

赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

処理中です...