何でリアルな中世ヨーロッパを舞台にしないかですって? そんなのトイレ事情に決まってるでしょーが!!

京衛武百十

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悪い男が女性を酔わせて不埒なことをと考えている時によく使う

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「カリン商会の成功を祈念して」

「ファルトバウゼン王国の繁栄を祈念して」

彼がカリン商会の成功を願ってくれたことに対して私はファルトバウゼン王国の繁栄を願ってグラスを掲げさせてもらった。ここではグラスを打ち合わせて乾杯はしない。もっとも、向こうの世界でもホントに上質なワイングラスとかは繊細だから打ち合わせたりしないそうだけど。こっちではそういうのがまだちゃんと伝わってるんだな。

「…え? あ、美味しい…!」

キラカレブレン卿が持ってきたのは、こちらで採れるブドウによく似た果実を使ったお酒で、見た目はもう完全にワインだった。実際、風味も何もワインそのものっていうお酒が主流だ。だから<ブドウ><ワイン>と呼称することにしてる。でも、私は正直言ってワインはちょっと苦手だったんだけど、今回のは本当に甘いブドウのジュースにアルコールが入ってる感じの、すごく飲みやすいお酒だった。

「これ、ワインじゃないですね…?」

さすがにこれをワインと呼ぶには無理があると感じて私はそう尋ねてた。

「はい、カリン殿はお酒があまり得意ではないとレディ・メロエリータよりお聞きしておりましたので、そういう方にも飲みやすいものと思いまして見繕ってまいりました」

か~っ! こういうのが<紳士>って言うんだろうなあ。相手が好きかどうかも考えないで高いお酒を注文してウンチク垂れるだけの自称<紳士>に、爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいね……!

ただ、このお酒、飲みやすいだけについつい飲みすぎそうだな。気を付けなくちゃ。

で、ハイペースにならないように少しずつ口にする私の様子を見て、キラカレブレン卿がニッコリと微笑んで言った。

「このお酒、<ペルル>というのですが、悪い男が女性を酔わせて不埒なことをと考えている時によく使うものなんです」

とかいきなりぶっちゃけてきた。

『ええ!? それってどういう…!?』

思わずドン引きする私に、彼は今度は悪戯っぽく笑って、でも深く頭を下げてきた。

「申し訳ございません。あなたを試させていただきました。飲みやすい酒を勧められて無防備にグラスを空けるような方ではこの先が不安かと思いましたが、貴女はしっかりと自らを律してらっしゃる。これからも我がファルトバウゼン王国をお任せするに相応しい方だと改めて思いました」

だって。

なるほど。ブラドフォンセス王国への特使というだけじゃなくて、私という人間を値踏みする為の試験官でもあったっていうことか……

「気を悪くなされましても当然だと思います。しかし、我らとしても国の行く先を任せるに値する人物かどうかを見極めさせていただきたく、このような真似をさせていただきました」

深々と頭を下げた上で真摯に向き合ってくれたことで、私としてもそれは当然のことだと思えた。

むしろその辺りがちゃらんぽらんな指導者のいる国って危なっかしくて怖いし。だから。

「私こそ、ファルトバウゼン王国がそういうのをしっかり確かめようとする国で安心しました。こちらこそよろしくお願いいたします」

と応えさせてもらったのだった。

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