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そんなこと言ってまた俺達を騙そうとしてるんじゃないのか?

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集まった農民達は、朝早くに呼び出されたからか、それとも私のことを訝しがってるからか、昨日に私自身が畑の呪いを解いたあの夫婦以外は一様に殺気立った気配を見せていた気がした。

「それで、俺らに何をしろって言うんですかい?」

中でもひときわギロリと睨んできてた体の大きな三十代くらいかなって感じの男性が威圧するかのように訊いてきた。

うわ~、イライラしてる~…!

でもまあ無理もないと私が思ってると、隣に立ってたキラカレブレン卿が、

「貴様……口を慎め…!」

とこれまた腰に下げた剣に手を掛けそうなくらいの感じで威圧した。この辺りもさすがは支配階級だな。他の国のとは言え農民相手には遠慮がない。

それでも農民達も、自分達が今大変な状態にあることで怒りの矛先を探してるっていうのもあるんだろうな。貴族に凄まれてもまったく引き下がる様子が見えなかった。

そうやって攻撃的に出れば最後はぶつかり合うしかなくなってしまう。だから私は言った。

「みなさんのお怒りはごもっともです。ですから、私としても無駄に時間を掛けるつもりはありません。みなさんの畑に掛けられた呪いを解く方法をお教えしますので、それを覚えていってください。こちらの用件はそれだけです」

私がきっぱりとそう言うと、ざわざわと口々に話し始める。

「とにかく、見ていただくのが確実です」

と口にしながら、練習用に用意してもらってた馬のウンチを持ってきてもらって、農民達の前でなるべく聞き取りやすいようにはっきりと呪文を唱えた。すると容器に入ったウンチがみるみる変化し、堆肥へと変わる。

「近くの人は臭いを嗅いでもらうと分かりますが、本当はこんな感じで殆ど臭わなくなるんです。ですがみなさんの畑に撒かれたものはかなり臭ってたと思います。これが<呪い>の基です。皆さんには、今臭ってるものをこの状態にする為の魔法を覚えていってもらいます。これで畑に掛けられた呪いは解けます」

そう説明した私に、それでも疑わしそうな視線を向けてくるさっきの男性が言い放つ。

「それは本当なのか? そんなこと言ってまた俺達を騙そうとしてるんじゃないのか?」

その態度にキラカレブレン卿が「貴様、いい加減に…!」と剣に手をやった。ざわっとした緊張がその場に走る。だけど私は卿に手を差し出して制した。

「もし私が伝えようとしてる魔法が偽物なら、私は今頃ここにいません。これは我がファルトバウゼン王国を空前の大豊作にした魔法そのものです。私はその秘密のすべてを皆さんにお教えします。

それにどうせ、今のままでは皆さんは今年食べる分の小麦も採れずに飢えるだけでしょう? だったら試してください。怒るのはその後でもいいはずです」

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