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場合によっては自信満々でハッタリをかます必要も出てくる

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キラカレブレン卿に支えられながらなんとか立ち上がり、馬車に乗せてもらって、私達はツフセマティアス卿の屋敷へと向かうことになった。

すると、そこまでのやり取りをただ黙って見てたメロエリータが私に声を掛けてきた。

「カリン。今回のことを見ていて、私はやはりお前を選んで正解だったと改めて確信したよ。お前は本当に性根の据わった、己の信念に生きる者だ。そんなお前と共にいられることを私は心から誇りに思う」

なんか、そこまで言われるとお尻の辺りがむず痒くなってくるな。

「そんな……私はそこまで立派な人間じゃないよ」

苦笑いになりながらそう応えると、でもメロエリータは真顔で言った。

「お前のそういうところも私は好きだが、しかしこれからは、そればっかりじゃ駄目な時もあることはわきまえてほしい。特に、商売の話をする時はそれでは舐められる。私がフォローできるときはするが、カリン自身も心掛けてほしい。場合によっては自信満々でハッタリをかます必要も出てくるってことを忘れないでくれ」

「そうだね……それはすごく感じる」

メロエリータの言うことはもっともだと思う。謙遜が美徳になるのは、相手も同じ感覚を持っている場合だけだ。だからこそ相手もそれを謙遜だと理解してくれる。でも、そういう感覚を持ち合わせない人間を相手に謙遜すると、酷く自信なさげに見えるらしい。アピールするべきところはアピールしなきゃいけないってことだね。

カリン商会の支社を任せる人達を選んだ時にはあまり無駄にアピールしてくる人は避けたけど、これはあくまでその仕事についてはそういう人材が欲しかったからそうしただけで、自己顕示欲の強い、グイグイと前に出てくるタイプが必要な仕事もあるんだ。そういうことをわきまえずに不採用だったからって逆恨みする人間は本当に始末が悪い。

そして今回の事件も、そういう人間が引き起こしたことのようだった。



この辺りを統治してる貴族のツフセマティアス卿の屋敷に到着した時には、私達は大変な歓待を受けた。私達に遅れて出発した支援物資の第一陣が到着し、ファルトバウゼン王国が、かかる事態に対して全面的に支援を行うという姿勢が示されたことで安心してもらえたからだった。

「私も貴公らの仕事について視察させてもらったが、実に見事なものだと感服していた。それと同じことができるというので任せてみたら、とんだ食わせ者だったということだ。私は自らの不明を恥じるばかりだよ」

歓迎の席で、私達の前に座ったツフセマティアス卿がほろ酔いの赤い顔でそう言った。パッと見の印象としては六十くらいかなと思ったけれど、平均寿命の短いここではそれより十歳は若いんだろうなと思った。

一見すると<人のいいオジサン>という感じの人物だったな。

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