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生まれきたる者

外出

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翌日早朝。ぐっすり眠ったことで老けて見えていたのも元に戻り、少なくとも年齢相応の顔に戻っていた蓮華は、軽く身だしなみを整えて自分の部屋を出、まだリビングのソファーで寝ていてる健雅の様子を確認した後、また自分の部屋に戻って自身の朝食の用意を部屋に設えられたミニキッチンで始めた。

この部屋の元のあるじがどんな気持ちでこの小さなキッチンで自分の食事の用意をしていたのかを思う。

事件当時、警察が捜索差し押さえのために訪れたこの部屋は、主にインスタント食品の空き容器で足の踏み場もなかったそうだ。しかも一部には食べかけのまま放置されていたそれもあり、腐ってカビが生えそれが畳まで侵食し、床に穴が開いていたりもしたそうである。

事件の後、親族の手続きにより容疑者の成年後見人となった弁護士によってこの家の売却が行われたものの、それはあくまで<古民家付き土地>としての売却であり、建物は取り壊される前提で、ゴミに埋もれたこの部屋も、殺害現場となったリビングも、そのままにされていた。

それを蓮華が買い取り、この部屋とリビングの内装をリフォーム。元は白かった外壁もクリーム色に塗り替えて、蓮華は住み始めたのだった。

しかし、いわくつきの事故物件となるとリフォーム業者にも敬遠され、結局、引き受けてくれたのは事故物件を主に引き受けるというような業者だった。それもあってかリフォームそのものは相場よりも高くついたものの、結果として事件の痕跡はまったく残っていない。

蓮華がこの家を選んだのは、自らに対する戒めの意味もあった。この家族が不幸な結末に終わったことを教訓とし、短慮を起こさないようにするためである。

とは言え、それで何か劇的なアイデアが浮かぶわけでもない。本当にただ単純に自らへの戒めでしかなかったが。

午前十時を過ぎた頃、部屋で裁判資料を読んでいた蓮華は、玄関のドアが開けられるアラーム音と共に監視カメラの映像が点いたのに気付いた。

見ると、健雅が家を出て行く姿が映し出されていた。

『パチンコ…かしらね』

そう思いつつ、スマホを手に取りどこかに電話を掛け始める。

「私よ。健雅が外出したからよろしく」

電話の相手は、戸野上とのがみとは別の探偵事務所だった。健雅の行動を監視し、万が一にも事件を起こすようであれば私人逮捕も含めた対処をしてもらうために、やや荒事にも慣れた探偵事務所を使っていた。

事実、追跡に動いた探偵は、異様なほどの拳ダコを持った者と、耳が特徴的に潰れ明らかに相当な柔道の経験者であることが分かる、どちらも屈強そうな男であった。

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