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生まれきたる者

にべもない

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暴力によって襲い掛かってくる者を一時的に力で退けるのは、あくまで自己防衛であって支配ではない。そういう事態に備えるためには力も必要だろう。それは否定されるべきではないと思われる。

しかし、<力による支配>はまた別の話のはずだ。

そして、力による支配を否定する者が力による支配を望んでは本末転倒というものだろう。

ただ、犯した罪に対する罰としての拘禁もまた必要だろうとも考えている。特に健雅のような粗暴犯の場合は、他人の権利を蔑ろにしたのだから、それを購うためには自身の権利もある程度までは制限されるのも当然であろうとは、蓮華も思っている。

刑務所に収監されて自由を奪われる程度の制限はあって然るべきだとも。

だから健雅が服役していたことも当然の報いなのだと。

とは言え今はこのような人間になってしまった健雅も、生まれた時はただの赤ん坊だったはずだ。巡り会わせが悪くロクでもない親の下に生まれてしまったというだけにすぎない。健侍けんじ健臣けんしんと同じだ。早い段階で対処してもらえていればここまでにはならなかった可能性も高いはずだった。

『そういう意味では可哀想な奴だね。こいつも……』

蓮華が用意するツマミを肴に缶ビールをあおる健雅を見て、蓮華は思った。

祖母はすでに他界。八十を目前にしてもなお現役として地方の児童養護施設で園長を勤めている母とは、自分から縁を切り連絡は取っていない。共に子供達の命を救う活動をしている仲間はいてもそちらとも普段は極力関わらないようにしている。あくまで活動の全容を知っているのは自分だけで、協力者達は事情も知らずに利用されただけとするために。自身の後継者として罪を背負わせる形となった獅子倉ししくらには申し訳ないと思っている。

故に今の蓮華も、ある意味では孤立した存在でもあった。必要以上他人とは関わらない。

辛うじて親戚筋ではあるといってもほぼほぼ赤の他人に近い健雅だけが家族のようなものだった。

久しぶりのビールを、顔を真っ赤にしてニヤニヤと笑みを浮かべながら堪能している健雅に蓮華は尋ねた。

「私はあんまり料理とか上手くないんだけど、どうする? それでも良かったら私が作るけど……」

彼女の提案に、健雅は、

「はあ? 誰がテメェみてえな気持ち悪いババアの作るもんとか食いたいと思うよ? だったらムショのメシのほうがよっぽどマシだわ」

と、にべもない。が、それは十分予測していた蓮華は、

「なら、これを渡しておくわね。当面の生活費にしてくれたらいい」

そう言って十万円が入った封筒をテーブルに置いた。すぐさまそれを手に取り中を確認した健雅は渋い顔をして、

「…ケチくせぇ。もっとポンと出せよ」

と言いながらもポケットに雑に突っ込んだのだった。

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