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生まれきたる者

暴力によって

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蓮華が懸念していた、

<健雅を野放しにすることによって出る新たな被害者>

というのは、この男の暴力によって支配される女性が出ることも含めての話である。

かつてカルト教団に拉致され凄惨な暴力に曝された時にも音を上げることのなかった蓮華には暴力に対する高い耐性もあるものの普通の女性にそんなものを期待することはできない。

そもそも他人を暴力で支配するという発想を改めないと更生したとは言えない。

こういう時、えてして健雅では勝てない強い奴を連れてきて力で抑え付ければいいと考えがちだろうが、それをしたからこの男はこんな人間に育ったのだ。そして、その経験ゆえに健雅自身も暴力に対する耐性が実は高い。目先の力で勝てなくても従っているフリをしていても、内心では恨みを募らせ復讐の機会を窺う。

そして自分だけの力で勝てないなら、油断したところを狙う、武器を使う、仲間を募って数の暴力で立ち向かう、という方向の知恵は働く。

暴力に慣れた人間というのは、そういう傾向を持つ者も多い。何がどう力になるのかをほとんど本能的なレベルで承知してるのだろう。

力がすべてであるからこそ。

体の小さな蓮華では健雅を力で捻じ伏せることはできない。となれば誰かをそのために雇うことになる。すると健雅の憎悪はそちらに向かい、いずれ凶行の被害者となる可能性が高い。

ボールペン一本でさえ武器になる。かつ、人間は二十四時間三百六十五日、ほんの数秒も気を抜くことなく臨戦態勢でいることはできない。一方で、健雅の方は相手の気が緩み隙を見せる瞬間を待てばいいだけなので極めて有利であろう。

力で支配を続けるというのは、実はそれを実践したことがない人間が考えるほど簡単なことではない。長期間それが成立するかどうかは、<支配される側の資質>に大きく依存する。

『早々に抵抗を諦めてしまう』

という資質に。

たとえ雌伏の時を過ごしてでもいつか今の状況をひっくり返してやると考える人間が相手では、それはいつか本当にひっくり返されてしまうのだ。

どれほど強大な軍事力を持つ国家が相手でもテロリストがいなくならないのもこれと同じだろう。

『抵抗する気力さえ失うほど締め上げればいい』

と考えそれを実践している国もあるようだが、果たしてその国は、傍から見て理想郷に見えるか?

また、人間以外の生き物は、なるほど力の強いものが単純に上に立てるのかもしれない。

しかし、人間には、武器を効果的に使う知能がある。そして、いつまでも恨みを忘れない記憶力がある。

執念深いと言われ、自分に危害を加えた相手をいつまでも忘れずに仕返しを続けるといわれているカラスでさえ、包丁を手に寝込みを襲ったりはしない。飲食物に毒を混ぜたりしない。灯油をばら撒いて火を点けたりしない。

人間が力で他人を支配するのが上手くいくのは、支配される側がそれを一方的に受け入れてくれるタイプだった場合のみなのだ。

そして健雅はそういうタイプではない。

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