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生まれきたる者

私は本当に無力で愚かだ……

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『私は本当に無力で愚かだ……』

健雅の出所日を明日に控え、蓮華はそんなことを考えていた。

彼に、今のままでは自分が損をするだけだということさえ悟らせてやれない自分が不甲斐なくて怒りさえ込み上げてくる。

『放っておけばいいじゃん』

と言う人間も多いが、健雅のような人間を放っておくということは、それはつまり被害が出ることを黙認するのと同じである。そして被害が出たら、

『被害者にも原因がある』

『油断してるのが悪い』

『危機意識が足りないのが悪い』

などと言うのだ。自分達が『放っておけ』と言ったことの責任を問われたくないが故に。

とは言え、赤の他人に何ができるのか?と言われればそれもまた事実ではある。

なので蓮華は他人に対して自分と同じことをしろとは言わない。

蓮華自身、何度も子供を生み捨てる人物に対しても何も言わないように、自分の言葉を聞く気のない赤の他人に対しては、基本的には法律に則った対処や決められた対処以外は何もしない。長々と人の道を説くこともしない。

そもそも、他人に対してガーンと言ってやったからといって何か問題が解決すると思うのか? その場はなるほど『スカッと』するかもしれないが、現実はフィクションではない。そこでエンドロールが流れて都合よく終わってはくれない。そこから先もあるのだから。

となれば、ガーンと言われた方もそのままおとなしくしてくれるだろうか? 

元より『ガーンと言ってやらないと気が済まない』と他人に思わせるほどの行状を繰り返す人間であれば、それ以前からきっと他のところでも何らかの形で『ガーンと言われて』きたのではないか? それにも拘らず態度が改まっていなかったからまたしても『ガーンと言われる』事態になったのではないのか?

つまり、『ガーンと言ってやった』程度で改まるのであればそこまでの事態には至ってなかった事例も多いのではないのか?

『でも、言ってやったことで反省する事例もあるだろ!?』

と言うかもしれないが、そういう事例が大多数であったなら、世の中にこんなに、

<ガーンと言ってやらないと気が済まない人間>

が多いはずがないと思うのだが? ましてやいい大人であれば、それまでにも言われたりしたことが一度もなかったと考える方が不自然ではないか?

結局のところそういうことなのだろう。

宿角健雅すくすみけんがもそうなのだ。罰せられた程度ではこいつは改まらない。

なにしろ、

『自分こそが正しくて、分かってないのは他の奴らだ』

と考えているのだから。

そういう考えを持つ人間に育てられ、それをしっかりと見習ってきたのだから。

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