生まれきたる者 ～要らない赤ちゃん引き取ります～

生まれきたる者

始まってさえ

声高に正義を振りかざし相手を殴りつければ万事上手くいくのであれば、宿角家の因業は、とうの昔に解決していたどころかおそらく始まってさえいなかっただろう。

しかし現実には必ずしもそうじゃないからこそ多くの不幸が生まれてしまった。

そして、蓮華達のやり方では、それを『始まらせない』ことはできても、『終わらせる』ことは難しいこともまた事実。

宿角健雅すくすみけんがの、刑期満了に伴う出所を間近に控えても、彼を＜更生＞させられるビジョンが、蓮華には見えてこなかった。

『健侍けんじと健臣けんしんについてはもう心配要らない。あの子達はあんたとは違う人生を歩みだした。だけど、あんたを変えることができる予感がまったくしない……

いくら偉そうなことを言ってても、私も所詮はこの程度……

ねえ、健雅……どうすればあんたを止められる……？　教えてよ……』

事務所で一人、資料を眺めながら蓮華は延々とそんなことを考え続ける。

服役中の健雅に何度か面会したが、彼の態度は頑なだった。それどころか面会を拒否するようになった。

解決の糸口さえ掴めなかった。

刑務所においても、蓮華と繋がりのある教誨師が協力してくれたものの、その言葉に耳を傾ける気配すらなかった。

健侍けんじと健臣けんしんはまだ間に合った。蓮華達のやり方で対処できた。

しかし、この世には、それ一つですべての事例に対処できる万能な方法などない。この世に無数の＜神＞や＜仏＞がいることでも分かるだろう。何か一つ万能なものがあれば、神も仏も一つで済むはずなのに、複数のそれがいるという時点で、

『＜唯一絶対の方法＞など存在しないと証明されている』

と言えるのではないだろうか？

蓮華達のやり方は、相手に聞く耳があるのが大前提の方法だった。だから、相手に聞く耳を持たせられるかどうかが肝になる。子供の場合は、特に年齢が幼いほど現実問題として自分の力だけで生きていくことができないという現実が立ちはだかることで、

『大人を利用して生き延びてやろう』

とでも思ってもらえればまだ、

『利用する価値のある大人である』

ことを提示できれば手掛かり足掛かりを作ることができる。

だが、すでに実際に自力で社会生活を営んできた経験を積んだ大人の場合、

『こいつとだけは関わりたくない』

などと思われて、

『他にもっと利用し易い奴を探せばいい』

という結論に至られると、ただひたすら逃げてしまうだけだろう。何しろ『こいつとだけは関わりたくない』んだから、無理に関わらなくても単に他を探せばいいわけで。

実際、元受刑者の支援もしている銀朱ぎんしゅ荘でも、そういう形で支援を拒み行方をくらます者が何人も出る。

それが現実なのだった。