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うろたえる必要が

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もえぎ園で働くということは、単に、

『救われない子供を救う』

とか、

『虐げられてきた子供を癒してあげる』

とか、上から目線の綺麗事で自己満足を得るのが目的ではない。むしろ、自らの過去と改めて向き合い、どうすれば目の前にいる子供達が、将来、自分と同じように自らの過去と向き合えるようになるのかを延々と考え続ける、

<修練>

もしくは、

<自己鍛錬>

の場であると言えるだろう。

<仕事>という以上に、修練や自己鍛錬の場という認識なので、子供達が自分の思い通りになってくれなくても、

『やってられない』

などと思う必要がない。

もえぎ園出身の職員達は、多くが虐待や育児放棄の元被害者なので、心に様々な<痛み>や<闇>を抱えている。

世間を恨み、社会を恨み、人間を憎んできた経験を積んできた者達だ。

そんな彼ら彼女らが社会と折り合いをつけて生きるのは、生半可なことではない。何か苦しいことがあるたびに、上手くいかないことがあるたびに、世間の所為、社会の所為、他人の所為にして何もかもを破壊してしまいたいという願望に駆られることも、たとえ<大人>と呼ばれる年齢になり、虐待や育児放棄を受けていた頃が悠か過去のことになったとしても完全に消え去ってしまうことはない。

無責任な他人は、

『そんな昔のことをいつまでも引きずるとかwwwww』

などと嘲ったりもするが、そうやって他人を嘲るようなお前は何なのだ? 人としてまっとうな神経を持っているのか? という話だろう。

気遣いや思い遣りを持っている人間は、他人を嘲ったりはしない。

自分にとって都合のいい相手しか気遣えない、思い遣れない人間は、ただ上辺を繕っているだけの人間だ。

決して<いい人>でも<立派な人>でもない。ちょっと気に入らないことがあるだけで手の平を返す、信用も信頼もできない上っ面だけの人間だ。

大人を信用していない、他人を信用していない子供は、<試し行動>によって相手の本質を探ろうとする。上辺を取り繕っているだけの人間の化けの皮をはがし、その本質を探ろうとする。

かつて自分がやってきたことを、やらずにいられなかったことを、今、灯安良てぃあらはやらずにいられないのだということを、もえぎ園の職員は知っている。

そんな彼女と向き合うことで、幼かった頃の自分と向き合い、自分の<痛み>や<闇>と向き合う。自分自身を客観的に見る。

自身の苦しかった過去に甘えてしまいそうになる己を戒める。

その為にやっていることなので、子供達の<試し行動>にうろたえる必要がないのである。

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