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試し行動

感情的な人間

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宿角蓮華すくすみれんげは、他人を自分のペースに従わせようとする相手には迎合しない。それと同時に、他人を無理に従わせようともしない。揺さぶりを掛けて本音や隠しているものを炙り出すことはあるものの、それは決して自分に従属させるためではない。

ただただ、互いに<対等な人間>として対峙することを目指しているだけだ。

たとえ相手が幼い子供であっても。

徳良泰心とくらたいしんには、過酷な虐待に伴う、知能面や精神面での発達の遅れが確認されていた。たとえそんな相手でも、

『自分より下』

とは考えない。考えないようにしている。

しかしそれは、相手が自分と同じことができて当たり前と考えているというのとはまた違う。自分にはできることが相手にはできないこともあるし、相手にできることが自分にはできないこともあるという現実は承知している。

だから、相手が<非常識な行動>をしたとしても、それを理由に感情的になることもない。蓮華が見せる<感情的な姿>は、基本的に相手を揺さぶるためのポーズでしかない。

なので、そういう形で揺さぶる必要がなければ、感情的な姿を見せることもない。

とくに、泰心のような事例においては、それは多くの場合で悪手でしかないことを知っている。なにしろ、感情を抑えることのできない人間に虐げられてきたのだ。つまり彼にとって、

『<感情的な人間>は、自分に害をなす危険な存在』

という認識が出来上がってしまっているのだ。

だから、感情は極力表に出さない。ただ冷静に、淡々と、必要なことだけをする。

泰心が壁に向かって小便をしても、当然、感情的にはならない。そんな蓮華に戸惑っている彼にも構わず、すっと立ち上がり、部屋の隅に置かれたロッカーに向かって歩く。

「!?」

泰心はそんな蓮華の動きを警戒し、蓮華が歩いたのとは反対側に歩き、また部屋の隅に陣取って警戒の視線を向けた。

けれど蓮華はそれにも構わない。ロッカーを開けて雑巾と殺菌消臭スプレーを取り出し、彼の小便を雑巾で拭き始めた。

泰心はさらに移動し、蓮華が最初に座っていた椅子のところにきて、黙々と小便の始末をしている彼女を見ていた。

小便の始末など、子供達が使う便器すら素手で触れて掃除する蓮華にとっては、普段の掃除と変わらない。それに、小さな子は時々お漏らしだってする。何も気にする理由がない。

加えて、彼の行動は典型的な<試し行動>だ。それによって試しているのだ。今、自分の目の前にいるその人間が、自分にとって敵か否かを。

そして彼にとっての<敵>は、<感情的な人間>なのである。

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