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日常

資質だけで

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風呂から上がった蓮華は、再びリビングで資料を読み始めた。そこには、園に来たばかりの子供の写真と、その子が卒園する頃の写真もあった。明らかに不信な目を向けて陰鬱な表情をしていたその子が新しく来た子供達に寄り添いながら穏やかに微笑んでいる。

それがすべてを物語っているといえるのかもしれない。その表情を見たいがために蓮華は努力を続けるのだ。

『子供ができなくたって子供を育てることはできる……私にはたくさんの子供がいるからね』

彼女が園長になってからだけでも、十数人が園を巣立っていってる。そのうちの数人が職員として戻ってきているし、養親として子供を引き受けてくれた者もいる。蓮華の母親が園長をしていた頃の元園児達の多くは結婚して、次々と養親になり始めてくれていた。

もちろん、今のレベルではまだまだ苦しい境遇にいる子供達すべてを救うことはできない。そこまでに到底至っていない。それでも、着実に歩みは進んでいる。

『それでも、本当は、生んだ親がちゃんと我が子を受け止められるのが一番いいに決まってる……でも、どう頑張ってもそれができない親っていうのも出てくるんだよ……人間が生きものである限りはね……』

もえぎ園はそういう<どう頑張ってもそれができない親>の下に生まれてきてしまう子供達の受け皿として存在している。必要なくなるのが望ましくても、現実はそうは上手くいかない。

『自分が親としての適性があるかどうかなんてのも、やってみないと分からないんだよね。私だって、こんなに子供達と接するのが楽しいなんて、この立場になるまでは思ってもみなかった。嫌いじゃなかったけど、ここまでとはね……』

だから、どういう形であっても子供ができるのは喜ばしい。実際にやってみて無理なら自分達が肩代わりするだけだ。

まあ、さすがに小学生が子供を生むことまでは好ましいとは思わないが。

『それでも、灯安良てぃあら阿礼あれいには、たぶん、親としての適性があるでしょうね。今はまだ彼女達自身が子供だから能力が足りないだけで。それについても私達が育ててあげる。だから心配しなくていい。親子三人、まとめて幸せになりなさい……』

紗莉安さりあの泣き声が聞こえてきたことで、駆けつけたくてうずうずしている自分を抑えながら、蓮華はそんなことを考えていた。

高校生である間倉井好羽まくらいこのははともかく、成人女性だったはずの乾池初美いぬいちはつみにも親としての適性がなく、小学生である灯安良てぃあら阿礼あれいにそれがあるというのは実に皮肉な話だろうが、こればかりは年齢などは実はあまり関係ない。単に資質の問題だ。

もちろん、努力によってそれを克服している者もいるので、資質だけで決まってしまうわけではないものの、努力さえすれば誰もが百メートルを十秒台で走れるようになる訳じゃないのと同じで、できるようにならない者はできないので、そういう人間に任せておいて子供を危険に曝すのは合理的とは言えないだろう。

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