194 / 283
学び
ありきたりな言葉
しおりを挟む
「赤ちゃん…私の赤ちゃん……」
出産した瞬間は半ば意識が飛んでいた灯安良だったが、「みゃーっ! みゃーっ!」と猫のような声を上げて泣く我が子に気付くと、ハッと意識が戻った。
生まれた赤ん坊は、話に聞いていた通りにしわくちゃで、なるほどサルのような見た目だと思ったものの、素直に『カワイイ♡』と思えた。
看護師に抱かせてもらうと、もう、たまらなかった。
「私の家族……」
胸がいっぱいになって、勝手に涙が溢れてくる。<感動>とか、そんなありきたりな言葉じゃピンとこない、体が震えるような<何か>だった。
立ち合い出産で、十八時間にわたって灯安良を励まし続けた阿礼も、疲労困憊ながらも赤ん坊を抱かせてもらうと、涙が勝手に溢れてくる様子だった。
「灯安良、灯安良、ありがとう…! よく頑張ったね…!」
涙ながらに灯安良を讃える姿も、並の夫婦よりも夫婦らしかったかもしれない。
その後、後産や切開した会陰の縫合もあり、阿礼と赤ん坊は分娩室から出された。
ベテランらしき看護師に付き添われて分娩室の外の椅子に赤ん坊を抱いて座る阿礼に、
「お疲れ様」
と声が掛けられる。
視線を上げた先にいたのは、宿角蓮華だった。その顔はとても穏やかで、新しい命を祝福しているのが分かる。
「あ……!」
立ち上がろうとして足に力が入らず、腰が落ちる阿礼と赤ん坊を、看護師がさっと支えた。さすがに何度も出産に臨んだベテランらしくそういうのにも慣れていたようだ。加えて、<小学生の出産>という異例の事態に、病院側としても通常以上の注意を払い、態勢を整えてきたのだろう。
実は灯安良の担当医師だった幸恵がちょうど休暇中に陣痛が始まってしまったので分娩は担当できなかったものの、他にも優れた産科医を擁した病院であったため、特に問題はなかった。幸恵も安心して任せていたという。ただ、せっかくの機会に立ち会えなかったことが残念だっただけだ。
そして、立ち会っただけだったとはいえさすがに十八時間ものそれは阿礼の体力を根こそぎ奪っており、今日のところはもう園に返って休ませるべく、蓮華が迎えに来たのである。
実際、職員が運転する迎えの自動車に乗った途端、緊張の糸が切れたのか阿礼はすぐに眠りに落ちてしまった。
その間に蓮華は、灯安良も見舞い、
「どう? 感想は…?」
と声を掛けると、灯安良は目を逸らしたままだったが、
「すごかった……すっごく痛かった。むちゃくちゃしんどかった……」
とだけ応えた。
「そう…それは貴重な体験だったわね」
穏やかに語り掛けた蓮華の表情も、とても柔らかいものなのだった。
出産した瞬間は半ば意識が飛んでいた灯安良だったが、「みゃーっ! みゃーっ!」と猫のような声を上げて泣く我が子に気付くと、ハッと意識が戻った。
生まれた赤ん坊は、話に聞いていた通りにしわくちゃで、なるほどサルのような見た目だと思ったものの、素直に『カワイイ♡』と思えた。
看護師に抱かせてもらうと、もう、たまらなかった。
「私の家族……」
胸がいっぱいになって、勝手に涙が溢れてくる。<感動>とか、そんなありきたりな言葉じゃピンとこない、体が震えるような<何か>だった。
立ち合い出産で、十八時間にわたって灯安良を励まし続けた阿礼も、疲労困憊ながらも赤ん坊を抱かせてもらうと、涙が勝手に溢れてくる様子だった。
「灯安良、灯安良、ありがとう…! よく頑張ったね…!」
涙ながらに灯安良を讃える姿も、並の夫婦よりも夫婦らしかったかもしれない。
その後、後産や切開した会陰の縫合もあり、阿礼と赤ん坊は分娩室から出された。
ベテランらしき看護師に付き添われて分娩室の外の椅子に赤ん坊を抱いて座る阿礼に、
「お疲れ様」
と声が掛けられる。
視線を上げた先にいたのは、宿角蓮華だった。その顔はとても穏やかで、新しい命を祝福しているのが分かる。
「あ……!」
立ち上がろうとして足に力が入らず、腰が落ちる阿礼と赤ん坊を、看護師がさっと支えた。さすがに何度も出産に臨んだベテランらしくそういうのにも慣れていたようだ。加えて、<小学生の出産>という異例の事態に、病院側としても通常以上の注意を払い、態勢を整えてきたのだろう。
実は灯安良の担当医師だった幸恵がちょうど休暇中に陣痛が始まってしまったので分娩は担当できなかったものの、他にも優れた産科医を擁した病院であったため、特に問題はなかった。幸恵も安心して任せていたという。ただ、せっかくの機会に立ち会えなかったことが残念だっただけだ。
そして、立ち会っただけだったとはいえさすがに十八時間ものそれは阿礼の体力を根こそぎ奪っており、今日のところはもう園に返って休ませるべく、蓮華が迎えに来たのである。
実際、職員が運転する迎えの自動車に乗った途端、緊張の糸が切れたのか阿礼はすぐに眠りに落ちてしまった。
その間に蓮華は、灯安良も見舞い、
「どう? 感想は…?」
と声を掛けると、灯安良は目を逸らしたままだったが、
「すごかった……すっごく痛かった。むちゃくちゃしんどかった……」
とだけ応えた。
「そう…それは貴重な体験だったわね」
穏やかに語り掛けた蓮華の表情も、とても柔らかいものなのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
仮初家族
ゴールデンフィッシュメダル
ライト文芸
エリカは高校2年生。
親が失踪してからなんとか一人で踏ん張って生きている。
当たり前を当たり前に与えられなかった少女がそれでも頑張ってなんとか光を見つけるまでの物語。
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
死なせてくれたらよかったのに
夕季 夕
現代文学
物心ついた頃から、私は死に対して恐怖心を抱いていた。生きる意味とはなにか、死んだらなにが残るのか。
しかし、そんな私は死を望んだ。けれどもそれは、悪いことですか?
このユーザは規約違反のため、運営により削除されました。 前科者みたい 小説家になろうを腐ったみかんのように捨てられた 雑記帳
春秋花壇
現代文学
ある日、突然、小説家になろうから腐った蜜柑のように捨てられました。
エラーが発生しました
このユーザは規約違反のため、運営により削除されました。
前科者みたい
これ一生、書かれるのかな
統合失調症、重症うつ病、解離性同一性障害、境界性パーソナリティ障害の主人公、パニック発作、視野狭窄から立ち直ることができるでしょうか。
2019年12月7日
私の小説の目標は
三浦綾子「塩狩峠」
遠藤周作「わたしが・棄てた・女」
そして、作品の主題は「共に生きたい」
かはたれどきの公園で
編集会議は行われた
方向性も、書きたいものも
何も決まっていないから
カオスになるんだと
気づきを頂いた
さあ 目的地に向かって
面舵いっぱいヨーソロー
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】「やさしい狂犬~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.1~」
M‐赤井翼
現代文学
稀世ちゃんファン、お待たせしました。「なつ&陽菜4 THE FINAL」終わって、少し時間をいただきましたが、ようやく「稀世ちゃん」の新作連載開始です。
脇役でなく「主役」の「稀世ちゃん」が帰ってきました。
ただ、「諸事情」ありまして、「アラサー」で「お母さん」になってた稀世ちゃんが、「22歳」に戻っての復活です(笑)。
大人の事情は「予告のようなもの」を読んでやってください(笑)。
クライアントさんの意向で今作は「ミステリー」です。
皆様のお口に合うかわかりませんが一生懸命書きましたので、ちょっとページをめくっていただけると嬉しいです。
「最後で笑えば勝ちなのよ」や「私の神様は〇〇〇〇さん」のような、「普通の小説(笑)」です。
ケガで女子レスラーを引退して「記者」になった「稀世ちゃん」を応援してあげてください。
今作も「メール」は受け付けていますので
「よーろーひーこー」(⋈◍>◡<◍)。✧♡
私の神様は〇〇〇〇さん~不思議な太ったおじさんと難病宣告を受けた女の子の1週間の物語~
あらお☆ひろ
現代文学
白血病の診断を受けた20歳の大学生「本田望《ほんだ・のぞみ》」と偶然出会ったちょっと変わった太ったおじさん「備里健《そなえざと・けん」》の1週間の物語です。
「劇脚本」用に大人の絵本(※「H」なものではありません)的に準備したものです。
マニアな読者(笑)を抱えてる「赤井翼」氏の原案をもとに加筆しました。
「病気」を取り扱っていますが、重くならないようにしています。
希と健が「B級グルメ」を楽しみながら、「病気平癒」の神様(※諸説あり)をめぐる話です。
わかりやすいように、極力写真を入れるようにしていますが、撮り忘れやピンボケでアップできないところもあるのはご愛敬としてください。
基本的には、「ハッピーエンド」なので「ゆるーく」お読みください。
全31チャプターなのでひと月くらいお付き合いいただきたいと思います。
よろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる