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学び
問い掛け
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守縫久人に気遣われ、もえぎ園の職員にも見守られ、それでも灯安良は信頼することができなかった。
当然だろう。両親も周囲の大人も信頼できずに育ってきた子供が他人を信頼できるようになるのは簡単ではない。成長と共に上辺だけは取り繕うこともできるようになろうとも、本質的には他人を信用も信頼もしない。できないのだから。
信頼できる大人を見てこなかったのだから、それが急に自分の前に現れるなど思いもしないのだ。
加えて、マタニティブルーの状態ともなれば、フィクションのように優しくされただけで都合よく心を開くということもできない。
一方、阿礼の方は、自身が妊娠している訳ではないことや久人と波長が合ったことに加え、逃避行中に自分がほとんど何もできなかったという現実を鑑みて、自分達に対して優しそうな大人については積極的に利用してやろうという発想にシフトしていた。
自分が子供だということを思い知ったのだ。ならば、能力を持つ人間を利用した方が確実だと気付いたのである。
故に、灯安良と大人の間に入り、双方の橋渡し役を買って出ようと考えたのだった。
「久人くん、ここの大人達は信じていいの?」
他の園児とも職員とも関わりたくないと自室にこもってしまった灯安良に代わり、阿礼は久人に問うた。
それに対して久人は、女の子のような仕草で小首をかしげつつ微笑み、
「うん。僕もここに来たから自分らしくいられるようになったんだ。ここの大人達は大丈夫だよ。すごくいろんなことを勉強してて、ちゃんと僕達に分かるように説明してくれるんだ。
僕のお父さんやお母さんは全然そんな風にしてくれなかったのにね」
と応えた。
「そうなんだ……」
阿礼はそう応えながらも、さすがにまだ完全には信用できなかった。信用するには、信頼するには、材料が足りなかった。もっとここの大人達をよく見て、本性を見極めないといけないと、ほとんど本能的に思っていた。
だから問い掛ける。
「僕と灯安良の赤ちゃんはどうなりますか? 僕達から取り上げたりしませんか?」
質問を受けた中年女性の職員は、とても小学生とは思えない彼の端的で理路整然とした質問に舌を巻きながらも、
「そうね。あなた達が赤ちゃんをちゃんと愛してくれたら、取り上げたりはしません」
と応えた。しかしそれに対して阿礼は、その女性職員の目を真っ直ぐに見詰め、さらに問うた。
「それは、僕達から赤ちゃんを取り上げる時に、『あなた達が愛せてないから』ってことにして僕達の所為にするためですか?」
大人がよくやる、
『あれやこれやと難癖を付けて相手に責任をなすりつける』
行為をよく知っているからこその質問であった。
当然だろう。両親も周囲の大人も信頼できずに育ってきた子供が他人を信頼できるようになるのは簡単ではない。成長と共に上辺だけは取り繕うこともできるようになろうとも、本質的には他人を信用も信頼もしない。できないのだから。
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加えて、マタニティブルーの状態ともなれば、フィクションのように優しくされただけで都合よく心を開くということもできない。
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