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灯安良と阿礼

人間として正しい姿

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『なんだよ! 話が違げーじゃねーか! ちゃんと対応してくれるんじゃないのかよ!』

灯安良てぃあらは心の中でそう毒づいた。

しかし、彼女は勘違いをしている。『丁寧に対応してくれる』というのは、あくまで、

『規定に沿って丁寧に対応してくれる』

という意味でしかない。何でもかんでも自分の言いなりになってくれるということではないのだ。

この辺りも、両親がファミレスなどで店側に強引な要求をしたりしていた姿を見ていて、

『客の言うことは何でも聞かなければいけない』

などという思い上がりを見倣ってしまっているのだろう。今回は相手が児童相談所なので行政が管理する機関であって民間の店舗ではないものの、

『税金を払っている=客』

的な発想が基になっていることは否めないだろう。これもまた、彼女の両親が普段思っていることである。

ただ、勘違いをしてはいけないのは、灯安良てぃあら阿礼あれいの両親は決して<悪人>という訳でないということである。

法律上グレーな振る舞いをしていることはあっても、煙草をポイ捨てしていても、路上喫煙が禁止されている場所で煙草を吸っていても、制限速度を守らずに自動車を走らせていても、追い越し車線をずっと走行していても、高速道路が渋滞している時に路側帯を走って強引に前に進んでも、すでに黄信号に変わっているのに交差点に進入しても、駐車禁止の場所に駐車しても、自転車で歩道を猛スピードで走っても、通行区分を無視していても、夜間に無灯火で走っていても、信号を無視していても、ファミリーレストランのサラダバイキングやドリンクバーを注文せずに利用していても、賭けマージャンをしていても、SNSで他人を誹謗中傷していても、それですぐに悪人というわけではない。その程度のことは全く珍しくもない、それこそ誰でもしている、心当たりのある程度のことなのだろう。

問題は、そういう<正しくないことをしている自分>を正当化し、さらに棚に上げようとする姿勢なのだろう。

何でもかんでも四角四面にルールやマナーを守ることはできない。それは事実だ。しかし、そうやって自分が正しくないことをしているという事実に目を瞑り、棚に上げている姿勢がマズいのではないのか?

とは言えそれも、灯安良てぃあら阿礼あれいの両親自身、そのまた両親の姿勢から学び取ったものである。

途中でそれが問題だと気付いて改めていければ結果は違っていたかもしれないものの、残念ながら灯安良てぃあら阿礼あれいの両親は、そんな自分こそを正しいと考え、二人の前で、

『これこそ人間として正しい姿』

とばかりに振る舞ってきたのである。

故に、なんでも自分の思い通りになるのが、自分の都合に合わせてルールもマナーも捻じ曲げていいという姿勢を二人に示してきた結果が、これなのだろう。

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