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獅子倉勇雄

愚痴

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しばらくしてようやく普通に呼吸ができるようになっても、健喜けんきは敢えて腹を抱えて蹲っていた。ここで平気そうにすればまた蹴られると思ったからだ。

そうしつつ考えていた。

『あのクソが…何やってんだよ……』

仮にも自分の父親に対して、『クソ』と罵ってしまうくらいには、父親のことを嫌っていたのだった。

いつもいつも、

『俺がお前達を養ってやってるんだ、感謝しろ。だから俺の言うことに従うのが当然だ』

という態度が見え見えで、虫唾が走る奴だった。自分は偉いのだから尊敬するのが当たり前で、親である自分を敬わないような子供は生きている価値がない的なことまで口走っていながら、その結果が『警察に逮捕される』か。そんな奴のどこを尊敬すればいいというのか。

『くっそう…、ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな……!』

大人なんていつもそうだ。口では偉そうなことを言うクセに、『ルールを守れ』、『目上の人間を敬え』とか言うクセに、

『面倒臭いからゴミの分別とか守らなくていい』

とか、

『その自転車は古くなったからスーパーの駐輪場に捨ててこい』

とか平気で言うし、自分よりも年上で目上の学校の教頭に対しても、

『学校にとっちゃ生徒は客だぞ? 客の言うことを聞くのが当然だろ』

と言って、運動会の時に植え込みに座ろうとするしで、言ってることとやってることがバラバラだった。

しかも、

「大人がルール無視していいのかよ」

と思ったことを正直に口にすると、

「大人はいいんだよ。ちゃんと加減を分かってるから」

などと開き直る始末である。

こんな大人を、親を、どうやって尊敬しろと言うのか。挙句の果てに警察に逮捕されてそれを動画に撮られてネットで拡散されて。

意味が分からない。

大人というのは本当に口ばかりだ。自分が言ったことさえ守らない。だから言うことなんて聞く気になれないというのに、そんな自分を棚に上げて、

『子供は親の言うことを聞け!』

などと怒鳴る。怒鳴れば、叩けば、子供は親の言うことに従うと思っている。そんな頭の悪い奴の言うことを、自分は素直に聞くというのか?

聞いてない筈である。

なにしろ、

「うちの課長はマジで頭悪くてよ。バブルん頃にアホでも就職できた時に入社した奴だからポンコツ過ぎて使えねーんだわ。そのクセ、ごますりだけは上手いんだよ。それで上司に取り入って何とか課長まで来たって訳。でももうありゃダメだな。リストラされんのも時間の問題だ。こんな奴の言うこととか聞けるかってんだよ」

と、自宅で酒を飲みながら、家族の前で愚痴をこぼしていたくらいなのだから。

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