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斉藤敬三
敬三と蓮華
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養親が見付からず、<もえぎ園>内でも問題行動がやまず、孤立していた斉藤敬三だったが、唯一、園長の娘で当時はまだ一職員として園を手伝っていた宿角梢に対してだけは、明らかに他の大人に対するそれとは違う態度を取っていた。
「敬三くん。また喧嘩したの? 血が出てる。ほら、拭いてあげるから」
彼が他の園の子供と喧嘩していたことは分かっていて、梢はそう言って彼を責めることなくただ声を掛けた。他の職員はただ、『喧嘩はダメだ!』と頭ごなしに言うだけだったのが、梢だけは違っていた。
と言うのも、梢はこの時点で、児童心理学などについても積極的に勉強し、敬三のような問題行動が止まらない児童への対応の仕方について多角的な視点からアプローチを図っていたのである。
しかし、一口に<児童心理>と言っても講義で示される事例と実際の事例とでは必ずしも合致するとは限らず、学んだことがそのまま活かせる訳ではないことも、梢は園で子供達と接する中で思い知ってもいた。
また、従来の職員達の中には<児童心理学>なるものへの不信感もまだ根強く、梢のやり方を『まどろっこしい』と内心では思っている職員もいない訳ではなかった。
『教科書通りに行かなくて当たり前。なにしろ相手は人間なんだから』
梢はそう考えて、反発する職員がいること自体を当然だと思うようにしていたのだと言う。
だが、そういう姿勢が、敬三をして『こいつは他の大人とどこか違う』と思わせたのかもしれない。
いや、敬三本人が後に、
「梢さんだけは『何か違う』とは思わされてたよ。あの人は俺を見下してなかったし」
と語っている。
「それと、もう一人」
当時はまだ三歳になったばかりで、保護されている他の園児と一緒に園の中でただ遊んでいた幼い女の子。
その子が、何かというと敬三のところに来ては絵本を差し出し、
「よんで!」
とおねだりしていた。乱暴者で喧嘩っ早い彼を恐れることなく。
後に、園を継いで園長となった梢からさらに園を引き継いだ宿角蓮華だった。
「るせーな! あっち行け!!」
怒鳴ってもすごんでも怯むことなく、
「えほんよんで!」
と迫ってくる蓮華のことは、当時の敬三はむしろ苦手に思っていたそうだ。
『こいつ、頭おかしい!』
などと感じて。
だが、それは敬三も同じだった。大人相手でも怯むことなく食って掛かる彼のことを、周りの人間は<狂人>だと思っていたのだから。
それと同じことをされて『こいつ苦手だ』とか思っているのだから、自分が見えていない人間がいかに滑稽かが分かるというものだろう。
「敬三くん。また喧嘩したの? 血が出てる。ほら、拭いてあげるから」
彼が他の園の子供と喧嘩していたことは分かっていて、梢はそう言って彼を責めることなくただ声を掛けた。他の職員はただ、『喧嘩はダメだ!』と頭ごなしに言うだけだったのが、梢だけは違っていた。
と言うのも、梢はこの時点で、児童心理学などについても積極的に勉強し、敬三のような問題行動が止まらない児童への対応の仕方について多角的な視点からアプローチを図っていたのである。
しかし、一口に<児童心理>と言っても講義で示される事例と実際の事例とでは必ずしも合致するとは限らず、学んだことがそのまま活かせる訳ではないことも、梢は園で子供達と接する中で思い知ってもいた。
また、従来の職員達の中には<児童心理学>なるものへの不信感もまだ根強く、梢のやり方を『まどろっこしい』と内心では思っている職員もいない訳ではなかった。
『教科書通りに行かなくて当たり前。なにしろ相手は人間なんだから』
梢はそう考えて、反発する職員がいること自体を当然だと思うようにしていたのだと言う。
だが、そういう姿勢が、敬三をして『こいつは他の大人とどこか違う』と思わせたのかもしれない。
いや、敬三本人が後に、
「梢さんだけは『何か違う』とは思わされてたよ。あの人は俺を見下してなかったし」
と語っている。
「それと、もう一人」
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「るせーな! あっち行け!!」
怒鳴ってもすごんでも怯むことなく、
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と迫ってくる蓮華のことは、当時の敬三はむしろ苦手に思っていたそうだ。
『こいつ、頭おかしい!』
などと感じて。
だが、それは敬三も同じだった。大人相手でも怯むことなく食って掛かる彼のことを、周りの人間は<狂人>だと思っていたのだから。
それと同じことをされて『こいつ苦手だ』とか思っているのだから、自分が見えていない人間がいかに滑稽かが分かるというものだろう。
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