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戸野上探偵事務所
類は友を呼ぶ
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「あいつを見付けたら教えてくださいよ…!」
別れ際、そう念を押してきた遠藤忠尚に対し、戸野上は曖昧に「努力します」とだけ応えて、彼の分もコーヒー代も立て替えて店を後にした。
『わざわざ出向いてやったのだから奢るのが当たり前』という態度は、話を聞いている間から透けて見えていたので、その通りにしてやったのだ。まあこの程度は必要経費として処理できる。
しかし、実に分かりやすい人間関係だ。<類は友を呼ぶ>という言葉の意味を改めて実感する。
『自分の周りにはロクな人間がいない!』と嘆く人間は多いが、幼い子供の頃ならまだしも、自ら人間関係を取捨選択できるようになった以降であれば、それは結局、自分が選んだ環境なのだということを自覚するべきなのかもしれない。自分の周りの人間が『ロクでもない』のなら、それは自身もそうであるという可能性が非常に高いのだ。
他人の所為にばかりしていて己を省みないから、自分が置かれている環境を変えることもできないとも言えるだろう。
戸野上は、そういう人間をうんざりするほど見てきた。伴侶が不倫をしていると言って飛び込んでくる人間は、『まあ、気持ちも冷めるよなあ』と思わせる者が実に多い。仕事だからいちいちそれを指摘はしないが、
『相手に変わってもらうことを期待するより、自分が変わった方が間違いなく確実で手っ取り早いですよ』
と言いたくなることも一度や二度ではなかった。いや、むしろ九割方がそう言いたくなる事例だったと言える。探偵に頼んで相手の弱みを握り自分に有利に話を進めようという発想がまず『自分こそが可愛い』ともいえるだろうし。
もちろん、本当に同情を引くような事例も中にはあるものの、決してその数は多くない。それでいて依頼人の殆どは『自分こそが被害者』と思っている。
戸野上は元々人間に期待していないので大して気にもしないものの、下手をすれば精神を病んでもおかしくないほどに人間の<浅ましさ>を見せ付けられる仕事でもあった。まあこの辺りは、弁護士などもそうかもしれないが。
実際、連携して何度か仕事をしたことのある弁護士も同じようなことを言っていた。そしてその弁護士も、<もえぎ園>に所縁のある者である。
『因果な商売だ……』
そんなことも思いながら、戸野上は次の待ち合わせ場所を目指した。今度は大学時代の知人である。こちらも一癖も二癖もありそうな人物だった。
『さて、どんなびっくり人間が現れるやら』
などということを思いつつ自嘲気味の笑みも微かに浮かべ、タクシーを呼び止めたのだった。
別れ際、そう念を押してきた遠藤忠尚に対し、戸野上は曖昧に「努力します」とだけ応えて、彼の分もコーヒー代も立て替えて店を後にした。
『わざわざ出向いてやったのだから奢るのが当たり前』という態度は、話を聞いている間から透けて見えていたので、その通りにしてやったのだ。まあこの程度は必要経費として処理できる。
しかし、実に分かりやすい人間関係だ。<類は友を呼ぶ>という言葉の意味を改めて実感する。
『自分の周りにはロクな人間がいない!』と嘆く人間は多いが、幼い子供の頃ならまだしも、自ら人間関係を取捨選択できるようになった以降であれば、それは結局、自分が選んだ環境なのだということを自覚するべきなのかもしれない。自分の周りの人間が『ロクでもない』のなら、それは自身もそうであるという可能性が非常に高いのだ。
他人の所為にばかりしていて己を省みないから、自分が置かれている環境を変えることもできないとも言えるだろう。
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