上 下
108 / 283
戸野上探偵事務所

類は友を呼ぶ

しおりを挟む
「あいつを見付けたら教えてくださいよ…!」

別れ際、そう念を押してきた遠藤忠尚えんどうただなおに対し、戸野上とのがみは曖昧に「努力します」とだけ応えて、彼の分もコーヒー代も立て替えて店を後にした。

『わざわざ出向いてやったのだから奢るのが当たり前』という態度は、話を聞いている間から透けて見えていたので、その通りにしてやったのだ。まあこの程度は必要経費として処理できる。

しかし、実に分かりやすい人間関係だ。<類は友を呼ぶ>という言葉の意味を改めて実感する。

『自分の周りにはロクな人間がいない!』と嘆く人間は多いが、幼い子供の頃ならまだしも、自ら人間関係を取捨選択できるようになった以降であれば、それは結局、自分が選んだ環境なのだということを自覚するべきなのかもしれない。自分の周りの人間が『ロクでもない』のなら、それは自身もそうであるという可能性が非常に高いのだ。

他人の所為にばかりしていて己を省みないから、自分が置かれている環境を変えることもできないとも言えるだろう。

戸野上は、そういう人間をうんざりするほど見てきた。伴侶が不倫をしていると言って飛び込んでくる人間は、『まあ、気持ちも冷めるよなあ』と思わせる者が実に多い。仕事だからいちいちそれを指摘はしないが、

『相手に変わってもらうことを期待するより、自分が変わった方が間違いなく確実で手っ取り早いですよ』

と言いたくなることも一度や二度ではなかった。いや、むしろ九割方がそう言いたくなる事例だったと言える。探偵に頼んで相手の弱みを握り自分に有利に話を進めようという発想がまず『自分こそが可愛い』ともいえるだろうし。

もちろん、本当に同情を引くような事例も中にはあるものの、決してその数は多くない。それでいて依頼人の殆どは『自分こそが被害者』と思っている。

戸野上は元々人間に期待していないので大して気にもしないものの、下手をすれば精神を病んでもおかしくないほどに人間の<浅ましさ>を見せ付けられる仕事でもあった。まあこの辺りは、弁護士などもそうかもしれないが。

実際、連携して何度か仕事をしたことのある弁護士も同じようなことを言っていた。そしてその弁護士も、<もえぎ園>に所縁のある者である。

『因果な商売だ……』

そんなことも思いながら、戸野上は次の待ち合わせ場所を目指した。今度は大学時代の知人である。こちらも一癖も二癖もありそうな人物だった。

『さて、どんなびっくり人間が現れるやら』

などということを思いつつ自嘲気味の笑みも微かに浮かべ、タクシーを呼び止めたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

連鎖する悲劇 ~制服のスカートを濡らしてしまっても~

yoshieeesan
現代文学
地域航空会社で勤務する客室乗務員を襲った悲劇とは?

『午後五時半のコンビニ前』

森田陽吉
現代文学
コンビニの前、高校生たちのいざこざ、それを見るコンビニ店員。それぞれの思惑。

マジックショー

まるがおMAX
現代文学
箱の底に消えたものはどこにいくのでしょう。

このユーザは規約違反のため、運営により削除されました。 前科者みたい 小説家になろうを腐ったみかんのように捨てられた 雑記帳

春秋花壇
現代文学
ある日、突然、小説家になろうから腐った蜜柑のように捨てられました。 エラーが発生しました このユーザは規約違反のため、運営により削除されました。 前科者みたい これ一生、書かれるのかな 統合失調症、重症うつ病、解離性同一性障害、境界性パーソナリティ障害の主人公、パニック発作、視野狭窄から立ち直ることができるでしょうか。 2019年12月7日 私の小説の目標は 三浦綾子「塩狩峠」 遠藤周作「わたしが・棄てた・女」 そして、作品の主題は「共に生きたい」 かはたれどきの公園で 編集会議は行われた 方向性も、書きたいものも 何も決まっていないから カオスになるんだと 気づきを頂いた さあ 目的地に向かって 面舵いっぱいヨーソロー

夫の親友〜西本匡臣の日記〜

ゆとり理
現代文学
誰にでももう一度会いたい人と思う人がいるだろう。 俺がもう一度会いたいと思うのは親友の妻だ。 そう気がついてから毎日親友の妻が頭の片隅で微笑んでいる気がする。 仕事も順調で金銭的にも困っていない、信頼できる部下もいる。 妻子にも恵まれているし、近隣住人もいい人たちだ。 傍から見たら絵に描いたような幸せな男なのだろう。 だが、俺は本当に幸せなのだろうか。 日記風のフィクションです。

泥の上のプリーツスカート

yoshieeesan
現代文学
大学生同士で旅行に行ったところまさかの事態に。。

書き出しと最後の一行だけで成る小説

音無威人
現代文学
最初の一行と最後の一行だけで成る実験小説。内容は冒頭とラストの二行のみ。その間の物語は読者の想像に委ねる。君の想像力を駆使して読んでくれ! 毎日更新中。

突然覚醒した巫女の夏子が古代ユダヤのアーク探しに挑んだ五日間の物語~余命半年を宣告された嫁が…R《リターンズ》~

M‐赤井翼
現代文学
1年ぶりに復活の「余命半年を宣告された嫁が…」シリーズの第1弾!ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。復帰第1弾の今作の主人公は「夏子」?淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基にアークの追跡が始まる。もちろん最後は「ドンパチ」の格闘戦!7月1日までの集中連載で毎日更新の一騎掲載!アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!では、感想やイラストをメール募集しながら連載スタートでーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡

処理中です...