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戸野上探偵事務所
手懐ける術
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自分から見えている状況だけで一方を<悪>と断じ<正義の制裁>を加え悦に入っていたという浅ましい青春時代を過ごした戸野上だったが、その本質は、善か悪かと言われれば、やはり<悪>寄りの人間だったのだろう。
なにしろ、別にイジメの被害者に同情したからそんなことをしたのではなく、ただ『自分の思う正義に反してた奴にムカついたから痛めつけた』だけであり、しかしそれを<正義>だと思い込んでいたのだから。
これは<正義>などでは決してない筈だ。むしろ<正義のふりをした悪>であると言ってもいいものであった。
ただこれでも、彼が本質的に持っているものからすれば随分と改善されたものであった。
でなければ彼は、『ただ気に入らない』という理由で他人を次々と殺す、連続殺人犯になっていてもおかしくない程だったのである。
それだけ危険なものを彼は秘めていたと言える。そしてそれは、紛れもなく彼の両親が育んだものだった。なにしろ虐待が発覚するまでは道を踏み外さずにこれたように見えるものの、結局は戸野上威に対する虐待の容疑で共に逮捕され、執行猶予付きとは言えど有罪判決を受けたのだから。
同時に、当時の<もえぎ園>園長によって起こされた裁判によって親権停止も言い渡され、戸野上は<もえぎ園>によって養育されることとなった。
そこで彼は、<自分にとって大切な人>達と出逢い、その人達の為に自分を制御する、自分の中の、<笑いながら他人を殺すことができてしまう気性>を手懐ける術を身に付けたことによって今日までやってこれたのである。
いや、実際には高校の時の件があるので、完全とは言い難いが。
その<償い>という訳ではないものの、全治三か月の重傷を負ったイジメ加害者及び被害者、さらにその家族に至るまで、双方の諍いの間に入って折衝を行う役を長年にわたって行ってきたリもした。
またそれによって人間というものの業の深さを改めて知り、自分を制御する為の<反面教師>とすることとなった。
本当に、単純に加害者とか被害者という区別では語れない事例が世の中にはあるのだということを戸野上は知った。
以来、彼は加害者とも被害者とも敢えて距離を置くようにし、どちらの肩入れも行わないように気を付けている。それがどこまで成功しているかはともかくとしても、少なくともそのことを理由に過剰な<正義の制裁>を加えずに済み、大きな事件を起こさずに済んでいることは事実である。
だが、釈埴新三については、本人こそは事件を起こしていないものの、妻と、戸籍上は実子として記載されている子を放り出し危うく死なせそうになったのだから、これは許されるものではないだろう。
ただし、法的に責任を負わせることができるかどうかについてはまた別の話なのだが。
なにしろ、別にイジメの被害者に同情したからそんなことをしたのではなく、ただ『自分の思う正義に反してた奴にムカついたから痛めつけた』だけであり、しかしそれを<正義>だと思い込んでいたのだから。
これは<正義>などでは決してない筈だ。むしろ<正義のふりをした悪>であると言ってもいいものであった。
ただこれでも、彼が本質的に持っているものからすれば随分と改善されたものであった。
でなければ彼は、『ただ気に入らない』という理由で他人を次々と殺す、連続殺人犯になっていてもおかしくない程だったのである。
それだけ危険なものを彼は秘めていたと言える。そしてそれは、紛れもなく彼の両親が育んだものだった。なにしろ虐待が発覚するまでは道を踏み外さずにこれたように見えるものの、結局は戸野上威に対する虐待の容疑で共に逮捕され、執行猶予付きとは言えど有罪判決を受けたのだから。
同時に、当時の<もえぎ園>園長によって起こされた裁判によって親権停止も言い渡され、戸野上は<もえぎ園>によって養育されることとなった。
そこで彼は、<自分にとって大切な人>達と出逢い、その人達の為に自分を制御する、自分の中の、<笑いながら他人を殺すことができてしまう気性>を手懐ける術を身に付けたことによって今日までやってこれたのである。
いや、実際には高校の時の件があるので、完全とは言い難いが。
その<償い>という訳ではないものの、全治三か月の重傷を負ったイジメ加害者及び被害者、さらにその家族に至るまで、双方の諍いの間に入って折衝を行う役を長年にわたって行ってきたリもした。
またそれによって人間というものの業の深さを改めて知り、自分を制御する為の<反面教師>とすることとなった。
本当に、単純に加害者とか被害者という区別では語れない事例が世の中にはあるのだということを戸野上は知った。
以来、彼は加害者とも被害者とも敢えて距離を置くようにし、どちらの肩入れも行わないように気を付けている。それがどこまで成功しているかはともかくとしても、少なくともそのことを理由に過剰な<正義の制裁>を加えずに済み、大きな事件を起こさずに済んでいることは事実である。
だが、釈埴新三については、本人こそは事件を起こしていないものの、妻と、戸籍上は実子として記載されている子を放り出し危うく死なせそうになったのだから、これは許されるものではないだろう。
ただし、法的に責任を負わせることができるかどうかについてはまた別の話なのだが。
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