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辻堂緋翔

捜索

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辻堂緋翔つじどうひしょうがアパートの一室に遺棄された事件で、斉藤敬三さいとうけいぞうはすぐさま捜査を開始した。まずは遺棄当時の保護責任者であった筈の父親、辻堂寧人つじどうていとの所在確認と身柄の確保である。さすがに状況が状況だけに逮捕状はすぐに取れた。有効期間は原則七日。しかし恐らくそれで十分だという直感が彼にはあった。

『なにしろ、蓮華が戸野上とのがみを使ってるからな。正直、ネットが当たり前の今の世の中じゃ、あいつらの方が鼻が利く。

本職としては情けない限りだし負けちゃいられないけどな』

そんなことを思いつつも、彼は彼なりに動いた。まずは関係者からの聞き込みである。辻堂寧人の元妻で辻堂緋翔の実の母親である、蒲茅登紀恵かもちときえに接触する。

しかし蒲茅登紀恵は、自分の実の息子が死にかけていたというのに明らかに迷惑顔で「知りません」「分かりません」というばかりだった。それでもいくつか辻堂寧人が立ち寄りそうな場所を聞き出すことができ、そちらを当たることにした。

するとすぐ、ある居酒屋でつい一週間前にも顔を出したという証言を得ることができた。しかも、月に二~三度のペースで訪れてるという。店員への態度が横柄で嫌な客として知られているので印象に残っているそうだ。

その話を聞いて、彼は確信を得ていた。

『こいつは割と近くに潜んでるな』と。

相棒の若い刑事も「遠くに逃げるとか考えなかったんですね」と呆れ顔だった。

しかしそれは別に珍しいことじゃない。本質的に気の小さい奴が自分の犯罪の痕跡がどうなったかというのが気になってしまって、意外なほど近くに潜伏しているというのは割とあることだったのだ。

その上で居酒屋の近くの防犯カメラを確認すると、辻堂寧人と思しき男が飲酒後に近くにとめてあった原付バイクに乗って走り去るのが確認され、そのナンバーを照会すると確かに辻堂寧人名義のバイクであることが分かった。

ここまでで僅か二日。これほどまでに痕跡を残すとか、実に脇の甘い男である。

半ば呆れながらもさらにNシステムなどでナンバーを照会すると、国道を頻繁に行き来していることが分かった。更に国道付近の防犯カメラを調べると、どうやらパチンコ屋に入り浸ってるらしいことも判明。行動範囲がすっかり絞れてしまった。

いくつかのパチンコ屋をローテーションで回ってるらしいので、張り込むと、五日目で辻堂寧人と思しき人物を現認。行動を把握し現在の住居を確認する為に尾行した。すると、自分達以外にも尾行者がいることに斉藤は気付いた。

『戸野上んとこの探偵か…』

すぐにそれを察し、しかし敢えてそのままにした。邪魔になるのでなければ構わなかったからである。

そして辻堂寧人と思しき人物が、同居女性と思しき人物と共にパチンコ屋から帰る途中の公園で、それは起こったのだった。

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