上 下
43 / 283
もえぎ園

国粋主義

しおりを挟む
戦後間もない頃に前身となる孤児院が設立されてから既に七十年近くに渡って子供達を保護し、教育を与えてきた<もえぎ園>の出身者は、十八歳になるまで園で過ごした者だけでも数百人に及ぶ。

その出身者は様々な職に就き、社会に貢献してきた。

『国を支える為に子供を作る訳じゃない』とか言う者がいる。なるほどそれはある意味では確かにそうかもしれない。だが、自らが<国の庇護下>にあり、憲法と法律に守られて国が整備したライフラインを利用しこの国に暮らしておきながら国を支える気はないとは、いったい、何様であろうか? 自分は一方的に国から恵んでもらって、自らの責任は何一つ果たさないと言うつもりなのか?

『税金を払っている』と言うかもしれない。だが、自分が払った税金の総額で、いったい、どの程度のライフラインが維持できるというのか? 自分が払った分の税金で賄いきれなかった分は国に負担してもらっているのではないのか?

権利ばかりを主張し、自分がどれほど国に守られているのかを理解しないで<一人前の人間>とは、いったいどの口が言うというのか。

宿角蓮華すくすみれんげはそう考えている。牧内不動まきうちふどうの考え方と極めて近い。そしてそれは、<もえぎ園>の出身者の多くの考え方でもある。

これだけを見れば<もえぎ園>は国粋主義者を養成する施設のようにも見えるかもしれない。

だがそれは物事を一面からしか見ない人間の印象に過ぎない。ここの出身者には、ジャーナリストとして国の行うことを監視する側に回った者も少なくないし、弁護士として人権を守ることを誓った者も少なくない。また、LGBTに相当する者も割合は決して多くはないが存在する。

だが皆、基本的に日本が好きで、日本に生まれたことを感謝していた。と言うか、<もえぎ園>のような施設の存在を許してくれる日本という国の懐の深さを感謝していると言うべきかもしれない。

だからこそ、この日本という国がなくなったりしては困るのだ。

故にそれぞれの立場で、それぞれの視点で、それぞれのやり方で日本という国を守りたいと考えていた。政府を監視したり批判したりするのも、そう思えばこそである。

その様々な立場、視点として、LGBTというものも含まれる。現に存在するそれとどのように付き合い折り合いをつけていくかということも、宿角蓮華をはじめとした<もえぎ園>に関わる人間達の重要な懸案事項だった。

そしてその日、守縫久人かみぬいひさとは保護され、<もえぎ園>へと来たのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【今日も新作の予告!】『偽りのチャンピオン~元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌VOL.3』

M‐赤井翼
現代文学
元女子プロレスラー新人記者「安稀世」のスクープ日誌の3作目になります。 今回のお題は「闇スポーツ賭博」! この春、メジャーリーグのスーパースターの通訳が起こした「闇スポーツ賭博」事件を覚えていますか? 日本にも海外「ブックメーカー」が多数参入してきています。 その中で「反社」や「海外マフィア」の「闇スポーツ賭博」がネットを中心にはびこっています。 今作は「闇スポーツ賭博」、「デジタルカジノ」を稀世ちゃん達が暴きます。 毎回書いていますが、基本的に「ハッピーエンド」の「明るい小説」にしようと思ってますので、安心して「ゆるーく」お読みください。 今作も、読者さんから希望が多かった、「直さん」、「なつ&陽菜コンビ」も再登場します。 もちろん主役は「稀世ちゃん」です。 このネタは3月から寝かしてきましたがアメリカでの元通訳の裁判は司法取引もあり「はっきりしない」も判決で終わりましたので、小説の中でくらいすっきりしてもらおうと思います! もちろん、話の流れ上、「稀世ちゃん」が「レスラー復帰」しリングの上で暴れます! リング外では「稀世ちゃん」たち「ニコニコ商店街メンバー」も大暴れしますよー! 皆さんからのご意見、感想のメールも募集しまーす! では、10月9日本編スタートです! よーろーひーこー! (⋈◍>◡<◍)。✧♡

走れない僕らは 違って同じだ

有箱
現代文学
俺の小学校では、徒競走が盛んだ。それゆえに足の速いやつ、イコール人気との図ができあがっていた。 なのに万年マラソン最下位の俺は、クラス中から仲間外れにされ、辛い日々を送っている。 だが、俺は言いたい。俺が最下位じゃないーーかもしれないと。なぜなら俺のクラスには病気でそもそも走らない奴がいるからだ。 俺はそいつが嫌いだった。なのに、そいつは構わず俺に話しかけてきて。

虐待

taketake
エッセイ・ノンフィクション
幼少時に虐待を受け親から捨てられ祖父母に引き取られて育つ少年の実話 皆さんは絶対に虐待しないで

希望の翼

美汐
ライト文芸
なにかに悩み、それでも懸命に生きようとする人たち。そんな彼らが出会うのは帽子を被った不思議な男。帽子の男と出会った人たちは、己の生き方をやがて見つけていく。 第一話 希望の翼 第二話 花の記憶 第三話 流星雨 第四話 生命の木 第五話 きみとともに

私小説「僕のこの恋は何色?」~ゲイとして生きる僕の道のり

歴野理久♂
現代文学
これは私小説です。性の目覚めと自覚。儚い初恋と鮮烈な初体験。そして僕を彩った数々の恋愛。これは甘酸っぱくも懐かしい想い出であり、愛しい人生の振り返りなのです。

薔薇は暁に香る

蒲公英
現代文学
虐げられた女に、救いの手を差し伸べる男。愛は生まれて育まれていくだろうか。 架空の国のお話ですが、ファンタジー要素はありません。 表紙絵はコマさん(@watagashi4)からお借りしました。

ネット短編集

しんたろう
現代文学
僕のネット短編作品集です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...