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もえぎ園
男らしくしろ
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守縫久人は、物心ついた頃から自分自身に対して強烈な違和感を感じていた。それでも、幼い頃はそんなに奇異には周りからも見えなかったかもしれない。とても大人しくて聞き分けの良い、扱いやすい子供に見えていたのだろう。
だがその頃には既にその片鱗は見えていた筈だった。彼は、いわゆる男の子ならだいたい誰でも好みそうな、自動車や電車やロボットの玩具にはまるで興味を示さず、絵本や可愛いキャラクターの玩具を欲しがった。特に着せ替え人形については、プレゼントの希望を訊かれる度に第一候補に挙げるほどだった。
けれど、彼の両親は『そんなのよりこっちの方がかっこいいよ』と言って、変身ヒーローの人形とかを勧めてきた。最初から着せ替え人形を選ぶつもりなどなく、自分達が思う<男の子が喜びそうな玩具>を押し付けてそれで満足していた。
でも彼は、不満しかなかった。仕方ないので彼は自分で紙を切ってセロテープで形を整えて<服>や<カツラ>を作り、それを変身ヒーローの人形に着せては着せ替えごっこをしていた。
両親はそんな彼を見て『変な遊び方をしてる』と思いつつもそれ以上は干渉せず、『まあ、大きくなってくれば遊び方も分かってくるだろう』と軽く考えていた。
また、彼には二つ年上の兄、恵人がいて、その兄は典型的な分かりやすい<男の子>だった。家の中でも高いところに上っては飛び降りたり、変身ヒーローのベルトを身に着けて「トオッ!」と声を上げながら玩具の武器で弟の久人に殴りかかるという感じだった。
久人は、そんな兄が苦手だった。いや、はっきり言って『嫌い』だった。乱暴でガサツで身勝手で、彼が作った紙の服を「なんだこんなもん!」と破り捨てて彼を泣かせた。
だが両親は、その度に、
「やられっぱなしじゃ駄目だぞ久人。そこでやり返すくらいでないと男の子としては駄目だ」
と、彼ばかりを責めた。彼にとってはそれも苦痛だった。自分は兄の玩具を悪戯したり壊したりしてないのに、せっかく作った服を破られた自分がなぜ叱られないといけないのか理解できなかった。
そして彼はますます内に籠るようになり、家の中でも殆ど口を利かなくなった。なのに兄はそんな弟を「ナヨナヨすんな!」と怒鳴りつけ、「どうした?、かかってこいよ!」と挑発しながら殴り、蹴った。
この頃には久人はもう、諦めの境地に達していたのかもしれない。誰も自分の話を聞こうともしてくれず、「男らしくしろ!」「泣くな!」「ナヨナヨするな!」」と押し付けてくるばかりなのをただ耐えるだけになっていたのだった。
だがその頃には既にその片鱗は見えていた筈だった。彼は、いわゆる男の子ならだいたい誰でも好みそうな、自動車や電車やロボットの玩具にはまるで興味を示さず、絵本や可愛いキャラクターの玩具を欲しがった。特に着せ替え人形については、プレゼントの希望を訊かれる度に第一候補に挙げるほどだった。
けれど、彼の両親は『そんなのよりこっちの方がかっこいいよ』と言って、変身ヒーローの人形とかを勧めてきた。最初から着せ替え人形を選ぶつもりなどなく、自分達が思う<男の子が喜びそうな玩具>を押し付けてそれで満足していた。
でも彼は、不満しかなかった。仕方ないので彼は自分で紙を切ってセロテープで形を整えて<服>や<カツラ>を作り、それを変身ヒーローの人形に着せては着せ替えごっこをしていた。
両親はそんな彼を見て『変な遊び方をしてる』と思いつつもそれ以上は干渉せず、『まあ、大きくなってくれば遊び方も分かってくるだろう』と軽く考えていた。
また、彼には二つ年上の兄、恵人がいて、その兄は典型的な分かりやすい<男の子>だった。家の中でも高いところに上っては飛び降りたり、変身ヒーローのベルトを身に着けて「トオッ!」と声を上げながら玩具の武器で弟の久人に殴りかかるという感じだった。
久人は、そんな兄が苦手だった。いや、はっきり言って『嫌い』だった。乱暴でガサツで身勝手で、彼が作った紙の服を「なんだこんなもん!」と破り捨てて彼を泣かせた。
だが両親は、その度に、
「やられっぱなしじゃ駄目だぞ久人。そこでやり返すくらいでないと男の子としては駄目だ」
と、彼ばかりを責めた。彼にとってはそれも苦痛だった。自分は兄の玩具を悪戯したり壊したりしてないのに、せっかく作った服を破られた自分がなぜ叱られないといけないのか理解できなかった。
そして彼はますます内に籠るようになり、家の中でも殆ど口を利かなくなった。なのに兄はそんな弟を「ナヨナヨすんな!」と怒鳴りつけ、「どうした?、かかってこいよ!」と挑発しながら殴り、蹴った。
この頃には久人はもう、諦めの境地に達していたのかもしれない。誰も自分の話を聞こうともしてくれず、「男らしくしろ!」「泣くな!」「ナヨナヨするな!」」と押し付けてくるばかりなのをただ耐えるだけになっていたのだった。
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