上 下
35 / 283
もえぎ園

話を聞く

しおりを挟む
「この可愛いのがいつか<暴れん棒>になって女の子泣かせたりするのかしらね。ま、そんなこと、私がさせないけど」

お尻拭きで可愛らしい男の子のものを拭きながら宿角蓮華すくすみれんげがそう言うと、千堂京香せんどうきょうかがその意味に気付いてぱあっと顔が赤くなった。

「園長、そういうのもセクハラになりますよ。気を付けた方がいいと思います」

こほんと咳払いをして京香がそう言うと、蓮華は苦笑いを浮かべながら、

「ああ、そうね。気を付けなきゃね」

と応えた。セクハラとかに対して厳しくなっていることも、そんな風には言いながらも蓮華はおおむね歓迎していた。今までが考えなし過ぎただけだとしか思っていない。また、男性から女性へのそれだけでなく、女性から男性へのそれもあって当然だと思っていた。

「セクハラについて厳しくなったことで文句言ってるのもいるみたいだけど、正直言って、それで文句言う奴はうちには要らないわ。男女関係なくね。だからあんたの指摘は正しい。気付いたことはちゃんと言いなさい。話は聞くから。聞いた上でそれに整合性があるのかないのか、きちんと検討するから」

それが、蓮華だけでなく、この<もえぎ園>そのものの方針だった。

『人の話はとにかく聞く』ということだ。そして、聞いた上で判断する。それは、大人として子供達に示すべき姿だと考えているからである。

子供とて、自分の言うことのすべてが通ると思っている訳ではない。通ってほしいとは思っていても、無理なこともあるというのは子供心にも理解しているのだ。なのに、話も聞かないで最初から結論ありきで『ダメ』とか言われるから感情的にもなる。

これは、それなりにいい歳をした大人でも心当たりがある筈だ。提案が通るとは思っていなくても、話も聞かずに頭ごなしに否定されれば腹も立つだろう。それと同じなのだ。話を聞いた上で、何故駄目なのかを説明してもらえれば、納得はできなくても理解できることもあるのではないか。

蓮華は、子供達に対して大人としてそれをきちんと態度で示そうとしているだけである。それがたとえ相手が赤ん坊であってもだ。

だから、<もえぎ園>の出身者は、相手の話にきちんと耳を傾ける者が多い。蓮華をはじめとした職員達の振る舞いそのものを真似しているからである。それを真似すればお互いに納得のいく話もできる可能性が高まると、自らの経験で知っているのだ。

また、相手の話に耳を傾けるという姿勢を幼いころから学んでいるので、いわゆる<コミュ障>と呼ばれる者も少ないのも特徴であった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死なせてくれたらよかったのに

夕季 夕
現代文学
物心ついた頃から、私は死に対して恐怖心を抱いていた。生きる意味とはなにか、死んだらなにが残るのか。 しかし、そんな私は死を望んだ。けれどもそれは、悪いことですか?

姉妹の愚痴〜心身障害者への理解を〜

刹那玻璃
現代文学
人間関係、親族関係、金銭トラブル、借金の肩代わりで人生も精神も崩壊、心の病に苦しむ私は、体も弱る。 無理はやめてほしいと祈っていた妹も疲れ果て、心療内科に通うことになる。 完璧主義で、人に仕事を押し付けられ、嫌と言えない性格だったのでそのまま地獄にまっしぐら……。 泣きながら私は日々を過ごす。

朽ちる世界の明日から

大山 たろう
現代文学
その日、上原 弘樹は、寝坊をした。 いつもより遅い時間の電車に乗って、でも、いつもの学校。 けれど、いつもの学校は永久に失われてしまった。 偶然にも、『寝坊』したせいで生き残った彼と、偶然同じ電車に乗った彼女の、旅の話である。

【第2話完結!】『2次元の彼R《リターンズ》~天才理系女子(りけじょ)「里景如志(さとかげ・しし)のAI恋愛事情~』

あらお☆ひろ
現代文学
はじめまして。「あらお☆ひろ」です。 アルファポリスでのデビューになります。 一応、赤井翼先生の「弟子」です!公認です(笑)! 今作は赤井先生に作ってらった「プロット」と「セリフ入りチャプター」を元に執筆させてもらってます。 主人公は「グリグリメガネ」で男っ気の無い22歳の帰国子女で「コンピュータ専門学校」の「プログラミング講師」の女の子「里景如志(さとかげ・しし)」ちゃんです。 思いっきり「りけじょ」な如志ちゃんは、20歳で失恋を経験した後、「2次元」に逃げ込んだ女の子なんですが「ひょんなこと」で手に入れた「スーパーコンピュータ」との出会いで、人生が大きく変わります。 「生成AI」や「GPT」を取り上げているので「専門用語」もバシバシ出てきますが、そこは読み逃がしてもらっても大丈夫なように赤井先生がストーリーは作ってくれてます。 主人公の如志ちゃんの周りには「イケメン」くんも出てきます。 「2次元」VS「リアル」の対決もあります。 「H」なシーンは「風呂上がり」のシーンくらいです(笑)。 あと、赤井先生も良く書きますが「ラストはハッピーエンド」です! ラスト前で大変な目に遭いますが、そこはで安心して読んでくださいね! 皆さんからの「ご意見」、「ご感想」お待ちしています!(あまり厳しいことは書かないでくださいね!ガラスのメンタルなもんで(笑)。) では、「2次元の彼~」始まりまーす! (⋈◍>◡<◍)。✧♡ (追伸、前半の挿絵は赤井翼先生に作ってもらいました。そこまでAI作画の「腕」が上がりませんでした(笑)。)

マジックショー

まるがおMAX
現代文学
箱の底に消えたものはどこにいくのでしょう。

期末テストで一番になれなかったら死ぬ

村井なお
青春
努力の意味を見失った少女。ひたむきに生きる病弱な少年。 二人はその言葉に一生懸命だった。 鶴崎舞夕は高校二年生である。 昔の彼女は成績優秀だった。 鹿島怜央は高校二年生である。 彼は成績優秀である。 夏も近いある日、舞夕は鹿島と出会う。 そして彼女は彼に惹かれていく。 彼の口にした一言が、どうしても忘れられなくて。

生きる

春秋花壇
現代文学
生きる

私の神様は〇〇〇〇さん~不思議な太ったおじさんと難病宣告を受けた女の子の1週間の物語~

あらお☆ひろ
現代文学
白血病の診断を受けた20歳の大学生「本田望《ほんだ・のぞみ》」と偶然出会ったちょっと変わった太ったおじさん「備里健《そなえざと・けん」》の1週間の物語です。 「劇脚本」用に大人の絵本(※「H」なものではありません)的に準備したものです。 マニアな読者(笑)を抱えてる「赤井翼」氏の原案をもとに加筆しました。 「病気」を取り扱っていますが、重くならないようにしています。 希と健が「B級グルメ」を楽しみながら、「病気平癒」の神様(※諸説あり)をめぐる話です。 わかりやすいように、極力写真を入れるようにしていますが、撮り忘れやピンボケでアップできないところもあるのはご愛敬としてください。 基本的には、「ハッピーエンド」なので「ゆるーく」お読みください。 全31チャプターなのでひと月くらいお付き合いいただきたいと思います。 よろしくお願いしまーす!(⋈◍>◡<◍)。✧♡

処理中です...