生まれきたる者 ~要らない赤ちゃん引き取ります~

京衛武百十

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もえぎ園

スルー

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『生まれてきてくれてありがとう』

それが、彼がいつも子供達を前にして口にする言葉である。決して義務や演技で口にしている訳ではない。本気でそう思っているのだ。

たとえ子供を愛することができない親の下に生まれついたのだとしても、親として機能不全を起こしている人間の下に生まれついたのだとしても、どうしても改まらないのなら、捨ててしまえばいい。

彼はそう思っていた。だから自分の両親も捨てた。そんな彼に倣い、早苗も自分の両親を捨てた。どちらも既に刑期を終えて出所しているが、所在さえ把握していないしそのつもりもなかった。

親不孝だと言うのなら言えばいい。恩知らずと言うのなら言えばいい。だが、自らが吐いたそれに何の責任も負おうとしない人間の言葉など、そよ風ほども届かない。

義理とは言え娘である早苗を己の欲望の道具にした彼女の養父を包丁で刺したことで、彼は『人殺し!』『死刑にしろ!』と罵られた。

早苗の身に起こったことをあまり大っぴらにしてはいけないだろうという報道側の配慮もあり、世間に対しては詳細に明らかにされなかったからというのもあるかもしれないが、元より無責任な他人は自分が見たいようにしかそういうものを見ない。

世間的には、彼が早苗に対して付きまといを行っていて、彼女の両親にそれを咎められたことに逆上して刺したという認識が当初は広まっていた。これは、早苗の養父や実母がそのようなことを匂わせる発言をしていたということも手伝っているだろう。

その後、養父が早苗に対して行っていた虐待について捜査が行われ明るみに出るのだが、牧内不動まきうちふどうによる傷害事件に比べると決して扱いは大きくなかった(内容が内容だけにその点を配慮した)こともあり、世間には認知されることは殆どなかった。それが明らかになった頃にはまた他の大きな事件が起こったこともあって、世間の関心がそちらに移ったという理由もあると思われる。

かように、世間というのは無責任なのだ。不動が早苗に付きまとっていたという事実など存在しないのに、自分の頭の中でそういうストーリーをでっち上げてそれを事実だと信じ切ってしまう。

だから、彼はそんな無責任な他人など関心すら持たない。いや、下手に関心を持ってしまっては、その存在を否定せずにいられなくなるから意図的にスルーしていると言った方がいいだろうか。

『お前達がそうやって現実を見ないで勝手に不幸になるのなら好きにすればいい。俺には関係ない』

要は、そう考えているということなのだろう。

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