6 / 283
もえぎ園
養親審査
しおりを挟む
「まあとにかく、この子は私達のところに来たんだ。この子が『生まれてきて良かった』と思えるようにしてあげるのが私達の役目だよ」
石田葵(仮)にミルクを与えつつ、宿角蓮華は千堂京香に向かってギロリと厳しい視線を向けた。
「はい! 養親希望者についてはまとめてあります」
そう応えながら京香はノートPCを広げ、蓮華の前に提示した。
「取り敢えず一通り見せてもらうわ」
と、石田葵(仮)にミルクを与えつつ器用にマウスを操作し、宿角蓮華が書類に目を通していく。
それぞれの書類には、本人が記入した申請内容だけでなく、動画や音声データも添付されていて、蓮華は、書類の内容にはほどほどしか目を通さず、動画の方を注視した。
最初の養親希望者は、動画を見始めて数秒で、
「却下」
と吐き棄てて<却下>のスタンプを押す。
「信号無視してるじゃない。論外」
などと忌々しげに口にした。
確かに動画には、小さな交差点で赤信号を無視して自転車で突っ切る女性の姿が映っていた。とは言え、本当に小さな交差点で自動車もまったく通っていないようなところである。だからか、
「え? いくらなんでも厳しすぎませんか?」
と京香が問うた。
そんな彼女に蓮華は言う。
「あのね。子供は親の振る舞いから人間としての振る舞いを学ぶの。親が信号すら守らないで子供が信号を守ってくれるとか思ってんの? 京香、あんたの養親はどうだったの? 信号も守らないような人間だった?」
「い、いえ、そんなことは……」
「でしょ? そんな奴は審査の段階で撥ねるの。
自分の子供を育ててるんなら私達は口出しできないけど、これは他人の子供を育てる人間を<選ぶ>作業なのよ。他人の子供の為に自分の人生さえ投げ出す覚悟がある人間を選ばなきゃいけないの。この子達が『生まれてきて良かった』って思える為にね。
いくら厳しくても厳しくし過ぎなんてないのよ。適任者が現れないのなら現れるまで審査を繰り返す。それだけよ」
と言いつつ次の書類に添付された動画を開いた瞬間、
「歩き煙草、はい、却下」
と吐き棄てる。
それから後も、「歩きスマホ、却下」「ゴミのポイ捨て、却下」「無灯火、却下」「店員への不遜な態度、却下」と次々と却下していく。
これらの動画は、申請書類だけでは分からない養親希望者達の普段の素行を監視したものであった。そこに映し出される人間性そのものを、蓮華は審査しているのである。
人間は嘘を吐く生き物だ。外面を取り繕い、綺麗事で身を固める者もいる。そういう人間の裏の姿こそが、審査対象なのだった。
石田葵(仮)にミルクを与えつつ、宿角蓮華は千堂京香に向かってギロリと厳しい視線を向けた。
「はい! 養親希望者についてはまとめてあります」
そう応えながら京香はノートPCを広げ、蓮華の前に提示した。
「取り敢えず一通り見せてもらうわ」
と、石田葵(仮)にミルクを与えつつ器用にマウスを操作し、宿角蓮華が書類に目を通していく。
それぞれの書類には、本人が記入した申請内容だけでなく、動画や音声データも添付されていて、蓮華は、書類の内容にはほどほどしか目を通さず、動画の方を注視した。
最初の養親希望者は、動画を見始めて数秒で、
「却下」
と吐き棄てて<却下>のスタンプを押す。
「信号無視してるじゃない。論外」
などと忌々しげに口にした。
確かに動画には、小さな交差点で赤信号を無視して自転車で突っ切る女性の姿が映っていた。とは言え、本当に小さな交差点で自動車もまったく通っていないようなところである。だからか、
「え? いくらなんでも厳しすぎませんか?」
と京香が問うた。
そんな彼女に蓮華は言う。
「あのね。子供は親の振る舞いから人間としての振る舞いを学ぶの。親が信号すら守らないで子供が信号を守ってくれるとか思ってんの? 京香、あんたの養親はどうだったの? 信号も守らないような人間だった?」
「い、いえ、そんなことは……」
「でしょ? そんな奴は審査の段階で撥ねるの。
自分の子供を育ててるんなら私達は口出しできないけど、これは他人の子供を育てる人間を<選ぶ>作業なのよ。他人の子供の為に自分の人生さえ投げ出す覚悟がある人間を選ばなきゃいけないの。この子達が『生まれてきて良かった』って思える為にね。
いくら厳しくても厳しくし過ぎなんてないのよ。適任者が現れないのなら現れるまで審査を繰り返す。それだけよ」
と言いつつ次の書類に添付された動画を開いた瞬間、
「歩き煙草、はい、却下」
と吐き棄てる。
それから後も、「歩きスマホ、却下」「ゴミのポイ捨て、却下」「無灯火、却下」「店員への不遜な態度、却下」と次々と却下していく。
これらの動画は、申請書類だけでは分からない養親希望者達の普段の素行を監視したものであった。そこに映し出される人間性そのものを、蓮華は審査しているのである。
人間は嘘を吐く生き物だ。外面を取り繕い、綺麗事で身を固める者もいる。そういう人間の裏の姿こそが、審査対象なのだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
スルドの声(反響) segunda rezar
桜のはなびら
現代文学
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。
長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。
客観的な評価は充分。
しかし彼女自身がまだ満足していなかった。
周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。
理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。
姉として、見過ごすことなどできようもなかった。
※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。
各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。
表紙はaiで作成しています
疫病神の誤算 -母親に殺されかけた少年が父親になろうとしてやりすぎて娘にベタベタされる話-
kei
現代文学
内容はタイトルの通りです。幼いころに母に殺されかけて自己肯定感を失った男がある女と出会い家庭を持ち一人の父親になってゆく姿を描きます。以前某文芸誌新人賞に応募した作品で、なろうさんに先行して投稿したものを再度手を入れてUPします。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる