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エピローグ

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あれからまた一万年の月日が流れ、それでも僕自身は何一つ変わることなくこの山に居る。ヒャクは、何度でも生まれ変わって僕に仕えたいと言っていたが、そんなムシのいい話もない。彼女が去ってから僕はずっと一人だ。

ただ、人間の世界の方は、随分と様変わりしていたけどな。

街そのものが百倍を超える広さになり、まるで山のような大きな建物がいくつも立ち並ぶようになったんだ。

しかも、聞くところによると、人間の数そのものが、この世界すべてを合わせると三十億にもなったとか。

麓の街だけでも百万人の人間がいるという。

これはまた随分と増えたものだ。

その一方で、僕との繋がりはほとんど失われてしまったらしい。人間は人間で勝手に生きられるようになったんだ。かつては六十年も生きれば長い方。百年生きれば<奇跡>と崇められるほどだったのが、百年くらいなら珍しくもなくなったとも。

そんな風に僕との繋がりも失われようとしてるのに、なぜか人間は、思い出したかのように僕が住む山に訪れるようになった。<アスファルト>とかいうもので固めた道を作り、<自動車>なる鋼の荷車で、ほんの一時間ほどで街から来られるようになった。

こうなるとさすがに騒々しいので、僕は、洞の辺りを<結界>で覆い、人間達が近付けないようにして平穏を守った。

なにしろ、僕が住むそれとは別の洞を、<竜神窟>と称して、毎日何十人も押し掛けてくる有様だからな。

しかもあれこれ好き勝手にくだらない願い事まで垂れ流していく始末。

もっとも、人間自身、本気でそれが叶うとは思っていないのが分かる。ただの<気休め>や<余興>の類だ。

『竜神に願った』

という形が欲しいだけなんだ。だから僕も、いちいち聞き入れたりしない。

<結界>は、かつて、人間の命が僕と強く繋がっていた頃には効果がなかったものだけど、皮肉なことに、繋がりがほとんど失われたからこそ効力が発揮されるようになったんだ。

なのに、その日は……



「……竜さんだ……!」

僕が洞の奥の寝床でまどろんでいると、いきなり、そんな声が届いてきた。

「む……?」

まさかの出来事に僕も頭を上げる。するとそこにいたのは、五つかそこらの童女だった。僕を指さし、嬉しそうに、

「竜さん!」

と口にする。

馬鹿な……結界は…活きている。人間は入ってこれないはずだ……

僕とよほど縁の深い者でもない限りは……

唖然とする僕に、その童女は言ったんだ。

「私、ヒャク! 竜さんに会いにきたんだよ!」



僕が張った結界の外では、<ヒャク>と名乗った童女の両親らしき人間が、しきりに童女の名を呼んで右往左往しているのが察せられた。自動車で山に来る者のために作られた休憩所が近くにあるから、そこに休憩のために立ち寄ったところ目を離した隙にいなくなったということか。

「親を心配させるとは、悪い娘だな……」

そんな僕の言葉にも、童女は、<ヒャク>は、悪びれることもなく満面の笑顔で、

「今日は竜さんにごあいさつにきたんだ! またね!」

手を振りながら、駈けていったのだった。







~了~



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