94 / 100
値打ち
しおりを挟む
カブリの形見の剣を奪った<剽賊>共を、問答無用で叩きのめした僕は、そいつらの傷だけを癒して放り出しておいた、
あんなところで寝ていては他の<剽賊>に身ぐるみ剥がされるか場合によっては命まで奪われるだろうが、後は知ったことじゃない。
まあ一応、目についた<自身番>に、
「向こうに<剽賊>がたむろしている」
とも告げておいたがな。
なのでそれはもうさておき、僕はカブリの形見の剣を手に、娘のところまで戻った。
「ありがとうございます…! ありがとうございます……!」
娘は剣を抱き締めて何度も頭を下げる。
「私にとってはもののついでだ。気にしなくていい。ただ、そんなものを後生大事に抱えていると、また同じことがあるだろう。それをカブリは喜ぶか、考えろ。カブリが『売って金に換えろ』と言っていたのなら、なおさらだ」
と告げた時、
「お話し中すまねえが、いいかい?」
僕の背後から声を掛けてきたのがいた。そいつを見た娘の顔が曇る。そして、
「銭なら、もう少し待ってください。ミブリが帰るまで……」
剣を抱き締めながら言う。
『金貸しの取り立てか……』
そう思いながら振り替えると、そこには、いかにも性悪そうな、金に汚そうな、下卑た目付きの年寄りが立っていた。
そいつは、僕のことなんか眼中にない様子で、娘が抱える剣を見て、
「なんだ。よさげなもん持ってるじゃないか。なんなら、そいつで今日の分にしてやってもいいんだよ」
ねっとりと粘つくような口ぶりで案を示す。
娘は、金貸しの言葉に、
「これは……」
と渋った。無理もない。<今日の分>がどの程度かは知らないが、多く見積もってもその剣の値打ちほどじゃないだろう。要するに、足元を見て安く手に入れて高く売るつもりなのだ。
これも、<商売>として考えれば間違ったことじゃないのかもしれない。しかし、普通に売ればもっと金になるものをこんな形で取り上げられる謂われもない。
だから僕は、言ったんだ。
「横から割り込んできて、無礼な奴だな。その剣は私が先に目を付けていたんだ。下がっててもらおう」
言いながら、懐から金が入った袋を取り出した。そこから、金貨二枚を出し、
「これで譲ってくれないか?」
娘に告げた。
「え…ええ……っ!?」
突然のことに、娘は唖然となる。まあ、無理もないか。突然なだけでなくいきなり金貨二枚だからな。
たぶん、その剣そのものは、そこまでの値打ちはないだろう。精々、金貨一枚程度だろうな。なのに二枚と言われては。
もっとも、その金貨は、私が『作った』ものだ。本物とまったく同じとはいえ、私にとってはその辺の石ころと値打ちは変わらん。
あんなところで寝ていては他の<剽賊>に身ぐるみ剥がされるか場合によっては命まで奪われるだろうが、後は知ったことじゃない。
まあ一応、目についた<自身番>に、
「向こうに<剽賊>がたむろしている」
とも告げておいたがな。
なのでそれはもうさておき、僕はカブリの形見の剣を手に、娘のところまで戻った。
「ありがとうございます…! ありがとうございます……!」
娘は剣を抱き締めて何度も頭を下げる。
「私にとってはもののついでだ。気にしなくていい。ただ、そんなものを後生大事に抱えていると、また同じことがあるだろう。それをカブリは喜ぶか、考えろ。カブリが『売って金に換えろ』と言っていたのなら、なおさらだ」
と告げた時、
「お話し中すまねえが、いいかい?」
僕の背後から声を掛けてきたのがいた。そいつを見た娘の顔が曇る。そして、
「銭なら、もう少し待ってください。ミブリが帰るまで……」
剣を抱き締めながら言う。
『金貸しの取り立てか……』
そう思いながら振り替えると、そこには、いかにも性悪そうな、金に汚そうな、下卑た目付きの年寄りが立っていた。
そいつは、僕のことなんか眼中にない様子で、娘が抱える剣を見て、
「なんだ。よさげなもん持ってるじゃないか。なんなら、そいつで今日の分にしてやってもいいんだよ」
ねっとりと粘つくような口ぶりで案を示す。
娘は、金貸しの言葉に、
「これは……」
と渋った。無理もない。<今日の分>がどの程度かは知らないが、多く見積もってもその剣の値打ちほどじゃないだろう。要するに、足元を見て安く手に入れて高く売るつもりなのだ。
これも、<商売>として考えれば間違ったことじゃないのかもしれない。しかし、普通に売ればもっと金になるものをこんな形で取り上げられる謂われもない。
だから僕は、言ったんだ。
「横から割り込んできて、無礼な奴だな。その剣は私が先に目を付けていたんだ。下がっててもらおう」
言いながら、懐から金が入った袋を取り出した。そこから、金貨二枚を出し、
「これで譲ってくれないか?」
娘に告げた。
「え…ええ……っ!?」
突然のことに、娘は唖然となる。まあ、無理もないか。突然なだけでなくいきなり金貨二枚だからな。
たぶん、その剣そのものは、そこまでの値打ちはないだろう。精々、金貨一枚程度だろうな。なのに二枚と言われては。
もっとも、その金貨は、私が『作った』ものだ。本物とまったく同じとはいえ、私にとってはその辺の石ころと値打ちは変わらん。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
気まぐれな太陽の神は、人間の恋愛を邪魔して嬉しそう
jin@黒塔
ファンタジー
死ぬまでずっと隠しておこうと決めていた秘密があった。
身分の違う彼の幸せを傍で見守り、彼が結婚しても、子供を持っても、自分の片思いを打ち明けるつもりなんてなかったはずなのに…。
あの日、太陽の神であるエリク神は全てを壊した。
結ばれない恋を見ながら、エリク神は満足そうに微笑んでいる。
【王族×平民の波乱の恋】
あぁ、この国の神はなんて残酷なのだろう____
小説家になろうで完結したので、こちらでも掲載します。
誤字等は後に修正していきます。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる