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値打ち

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カブリの形見の剣を奪った<剽賊ひょうぞく>共を、問答無用で叩きのめした僕は、そいつらの傷だけを癒して放り出しておいた、

あんなところで寝ていては他の<剽賊ひょうぞく>に身ぐるみ剥がされるか場合によっては命まで奪われるだろうが、後は知ったことじゃない。

まあ一応、目についた<自身番>に、

「向こうに<剽賊ひょうぞく>がたむろしている」

とも告げておいたがな。

なのでそれはもうさておき、僕はカブリの形見の剣を手に、娘のところまで戻った。

「ありがとうございます…! ありがとうございます……!」

娘は剣を抱き締めて何度も頭を下げる。

「私にとってはもののついでだ。気にしなくていい。ただ、そんなものを後生大事に抱えていると、また同じことがあるだろう。それをカブリは喜ぶか、考えろ。カブリが『売って金に換えろ』と言っていたのなら、なおさらだ」

と告げた時、

「お話し中すまねえが、いいかい?」

僕の背後から声を掛けてきたのがいた。そいつを見た娘の顔が曇る。そして、

「銭なら、もう少し待ってください。ミブリが帰るまで……」

剣を抱き締めながら言う。

『金貸しの取り立てか……』

そう思いながら振り替えると、そこには、いかにも性悪そうな、金に汚そうな、下卑た目付きの年寄りが立っていた。

そいつは、僕のことなんか眼中にない様子で、娘が抱える剣を見て、

「なんだ。よさげなもん持ってるじゃないか。なんなら、そいつで今日の分にしてやってもいいんだよ」

ねっとりと粘つくような口ぶりで案を示す。

娘は、金貸しの言葉に、

「これは……」

と渋った。無理もない。<今日の分>がどの程度かは知らないが、多く見積もってもその剣の値打ちほどじゃないだろう。要するに、足元を見て安く手に入れて高く売るつもりなのだ。

これも、<商売>として考えれば間違ったことじゃないのかもしれない。しかし、普通に売ればもっと金になるものをこんな形で取り上げられる謂われもない。

だから僕は、言ったんだ。

「横から割り込んできて、無礼な奴だな。その剣は私が先に目を付けていたんだ。下がっててもらおう」

言いながら、懐から金が入った袋を取り出した。そこから、金貨二枚を出し、

「これで譲ってくれないか?」

娘に告げた。

「え…ええ……っ!?」

突然のことに、娘は唖然となる。まあ、無理もないか。突然なだけでなくいきなり金貨二枚だからな。

たぶん、その剣そのものは、そこまでの値打ちはないだろう。精々、金貨一枚程度だろうな。なのに二枚と言われては。

もっとも、その金貨は、私が『作った』ものだ。本物とまったく同じとはいえ、私にとってはその辺の石ころと値打ちは変わらん。

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