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形見

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いかに事情があろうとも、人間である以上は<剽賊ひょうぞく>となって他人から財を奪うことは許されるものじゃない。<獣>であれば関係ないとしてもな。

しかし人間は、互いに力を合わせなければ生きていけない<ひ弱な生き物>だ、だからこそ、

『互いに力を合わせる』

ということを拒む輩は<害悪>として排除しなくちゃいけなくなった。その事実がある限りは、カブリの行いは是認されることはない。

とは言え、ほんの小さな身内の中だけではありながらも、カブリとしても非力な弟妹達を守ろうと考えたことも事実だろう。

ただ、やり方がまずかっただけだ。

あと、己の身の程をわきまえずに救おうとしたことも、身を滅ぼす結果に繋がったな。

たかが人間にできることは知れている。イブリとミブリだけを守り、他は放っておくべきだっただろうな。そうすれば、僅かな仕事と川で魚でも採っていれば<剽賊ひょうぞく>にまで身をやつすこともなかったかもしれん。

カブリ…お前の一番の<罪>は、

『自分に背負えるもの以上のものを背負おうとした』

ことだ……

愚かな奴め……

さりとて、カブリが救わなければこの娘が今こうしていなかったことも事実かもしれんわけで、ならば、この娘が生きてミブリに思いを寄せていることを咎めるのも違うだろう。せめてこいつらが幸せにならなければ、それこそカブリの命が無意味なものになってしまう。

さすがにそれはな……

と、僕はふと思い出し、

「ところで、ミブリはやけに立派な剣を持っていたが、あれはどこで?」

僕の問い掛けに、娘は、また怪訝そうな表情になって、

「……あれは、兄さんが、剣で身を立てようと考えて金を借りて買ったものです……体を壊してそれどころじゃなくなりましたけど……」

そう答えた。どうやら、僕が『どこかで盗んできたのか?』と疑ってると思ったようだ。そんな娘に、

「ならいい。ミブリは、筋は悪くない。まっとうに鍛えれば己の身と家族を守る程度のことはできるようにもなるだろう。精進しろと伝えてやってくれ。もっとも、己の身と家族を守るだけならあそこまでの剣は要らん。あの剣は売って金に換えて、少しでも借金を減らすといい。カブリも分かってくれる」

と告げる。そんな僕を睨むようにして、

「だけどあれは、兄さんの形見で……!」

などと言い返してきたが、

「だが、あの剣を買うためにも金を借りたんだろう? それがお前達を苦しめてることをカブリが喜ぶと思うか?」

その僕の言葉に、娘は目を見開いて、

「……確かに、兄さんもあの剣を売って足しにしてくれと……」

呟く。

「さにあらん。カブリの言った通りにしてやれ。それが供養というものだ」

そう言い残し、僕は街へと向かった。塩を買うためにな。

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