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竜神への供物

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ヒアカの姿になった僕に縋りついて泣きじゃくっていたヒャクは、しばらくすると疲れて眠ってしまっていた。

僕はそんな彼女をそっと抱きかかえて布団に寝かせ、僕も寄り添って横になる。

泣き腫らした瞼をして「すうすう」と寝息を立てる彼女を見ていると、なんとも言えない気分になる。

もちろんそれが<ヒアカの姿>をしているからこそものだというのも分かってる。本来の僕の姿をしている時にはここまでの気分になることはない。

まあ、動物の<子>は特にそういう気分を誘うものだというのは、僕も知ってるけどな。

そう言えば、こんなこともあったか……



それは、ザンカが祠を作ってから百年程が過ぎた頃だった。

僕は、「にいにい」と獣の子の鳴き声がするのに気付いて、寝床から出たんだ。獣の子の鳴き声というのはどうにも無視できない何かがあって、僕も無視できなかった。

でも、ザンカが作ったそれが作り変えられて少しだけ立派になってた祠の前で鳴いていたのは、<獣の子>じゃなかった。

<人間の赤子>

だったんだ。

僕はすぐに察した。

『自分じゃ育てられないから、捨てていったのか……』

と。

しかも、その辺に捨てれば咎められるかもしれないけど、

<竜神への供物>

としてここに置き去りにすれば咎められることもないという腹積もりだというのも。

祠を壊さないように人間の姿になって洞の外に出た僕は、一際高くそびえ立った木のてっぺんに上り、見下ろした。すると、山道を、人間の女が一人、慌てた様子で里に向かって下っていくのが見て取れた。

「あいつか……」

その女が赤子を捨てていったんだというのは察せられたけど、僕は、敢えてそいつに突き返すこともしなかった。こんなところに赤子を捨てていくような奴だ。どうせ突き返したところでまた別のところに捨てるのは分かってる。

だから僕は洞に戻って、にいにいと泣く赤子を見下ろした。

「……」

人間は、邪念塗れで雑味が酷く、喰って美味いものじゃない。

でも、邪な考えを持つことがない赤子なら……

……

……

しばらく思案していた僕は、自分の体に僅かな異変を感じた。

「……乳が張ってきている……?」

そうだ。この時、僕は、<人間の女>の姿になっていた。それも、ザンカが連れていた女房の姿だった。その、

<ザンカの女房と同じ体>

が、赤子の泣き声に応えるように、乳を作り始めたんだ。

まったく、人間の体というのは本当に奇妙奇天烈なものだな……

しかも、

『このまま赤子を喰ってしまおうか?』

という気分すら消え失せてしまう。

だから僕はその赤子を拾い上げて、自身の乳房を出し、押し付けてみたんだ。

すると赤子は、僕の乳を勢いよく飲み始めたのだった。

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