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邪竜

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『お前達人間は邪念塗れで不味いからな』

僕のその言葉に、ザンカがカッと目を見開いて、

「人間が邪念塗れだと…っ!? 邪竜が、何を言う……っっ!!」

とか何とか。

ふん、さっきは糞も小便も漏らして怯えていたくせに随分と威勢がいいじゃないか。

「お前達人間は、すぐ、己を美化し正しいものだと思いたがる。だが、その実、我が身可愛さで殺し裏切り貶める。しかも、獣のように『ただ生きるため』じゃない。我欲を満たすためだけに他者を蔑ろにする。それのどこが『邪念に塗れてない』と言うんだ? 

せめて己が醜いことを自覚して上辺を取り繕うとしていなければ<純然なる邪>として味も深まるというものを、己の邪を嘘で塗り固めて善を気取るなど、浅ましすぎるにもほどがあるわ」

僕がそう指摘すると、ザンカは、

「煩い煩い煩い! 確かに人間にはそういう奴もいるかもしれない! だが、心清く正しい者もいるんだ! 俺はその者のために……!!」

搾り出すように言う。

けれど僕は、

「だが、お前は正しくなどない」

きっぱりと吐き捨てる。

「何を……っ!!」

ザンカは不満げに僕を見るが、無駄だ。

「お前は、我が生贄共を喰ったと言ったが、それを確かめたのか? お前はその目で我が生贄共を喰うところを見たとでも言うのか?」

「それは……だが、誰一人帰ってきてないぞ……!」

「まったく、度し難い愚か者だな。お前達人間は。それが事実かどうかなどお構いなしに自分が信じたいものを信じようとする。いや、そう思い込もうとする」

「じゃあ、生贄達はどこに行ったんだ!?」

「さあな。山崩れの跡を掘り起こすか、山駆け水が奔った先でも探すかしろ。もしかしたら見付かるかもしれん」

「……っ!?」

ザンカはそれ以上言葉を続けられなかった。だから僕は言ってやったんだ。

「お前がここに来られたのは運がよかったんだろう。途中、山崩れや水が出ているところもあっただろうに、よくもまあ辿り着けたものだ」

その通りだった。こいつはもはやまともに人間が歩けるような有様でなかったところを必死に超えてここに辿り着いた。だが、僕への憤りに目が眩んで、そこに埋もれていた者達に気付かなかった。何しろ、よく見れば体の半分が土の中から覗いていた者もいたんだからな。

これで分かっただろう? こいつは、ありもしない罪を僕になすりつけて断罪しようとしたんだ。それが<正しい行い>か? そんな者が<善>だと言うのか?

笑わせるな!

「お前達人間は見たいものを見、信じたいものを信じる。見たくないもの、信じたくないものは、たとえそれが事実だろうと見ないし信じない。

そんなお前達に我は倒せない」

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