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猪奮迅

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僕は、この世界の<理>から外れた存在だ。そして、<造物主>ではない。

けれど、人間達からすれば自分達には決してできないことをしてみせるから、<神>と称する。

正直、僕にとっては迷惑千万な話だ。

しかも、人間達は僕を都合よく利用しようとする。

だけど時には、言うことを聞いてやってもいいかと思える人間がいるのも確か。

それがなかったら、とてもやってられないけどな。



ヒャクは、それで言うと、

<言うことを聞いてやってもいい人間>

なのは間違いない。

獣を捕るための罠を一緒に見に行くのも、それだからだし。

ただ、この時は、一緒に行ってよかったと思った。

何しろ、ひどく気性の荒いししがいたんだ。

体にいくつか折れた矢が刺さっていたから、人間に狙われて、でも生き延びて、だからこそ人間を激しく憎んでいるようだ。

そいつが、突然、茂みから飛び出してきた。

「がぁっはっっ!!」

とか声をあげながらな。

しかもそいつは、ヒャクじゃなく僕を狙ってきた。大人だったからだろう。猪を狩ろうとするのは、普通は大人だけだからな。

「竜神様!?」

少なく見積もっても大人三人分はありそうな大きさの猪が必殺の一撃を食らわせてきたわけだから、ヒャクにとっては恐ろしいことこの上なかったに違いない。

僕自身、猪の牙に腹を抉られてしまったし。

本当の人間だったら、これだけで動けなくなっていたな。

こぼれだしたはらわたを押し込んで、

「やってくれたな。獣風情が……!」

僕はぎろりと猪を睨んだ。いつもならこれで、鈍い獣でも、自分が対峙しているのが途轍もない存在だということを察して逃げていくんだけど、今回のそいつは、どうやら頭も壊れているらしい。

「ふっご! ごっはぁぁあぁっっ!!」

と吠えながら、またも飛び掛かってきた。

だけど、ヒャクはこんな余興を楽しむ奴じゃない。それどころか、腸をこぼれさせた僕を見て、がくがくと体を震わせていた。

「ヒャクを怯えさせた罪は重いぞ……!」

青ざめたヒャクの顔を見た僕の中にギリギリとたわむものが。

それを弾けさせるようにして、僕は地を蹴った。そこが爆発するように抉れ、僕の体が打ち出される。

さらに軽く握った手の底の部分を猪の頭に打ち付けてやった。

その僕の手に、硬くて湿ったものが『ゴシャッ!』と潰れる感触が。

猪の頭蓋だった。おそらく人間が同じことをしたら自分の腕の骨が砕けていただろうけど、僕がそのつもりになれば、ヒャクの父親であるヒアカが使っていた鉄の<さすまた>よりも固く強い武器になる。

頭の中身まで豆腐のように潰れて、猪は一撃で死んだ。

予定していた形とは少々違ってしまったが、まあいいだろう。

こうして僕達は猪を捕らえることができたのだった。

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