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何か腑に落ちるものが

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『いつまで経っても自分の下を巣立つことがない子だから愛せる』

人間はこういうのを『歪んでる』と言うだろう。

確かに歪んでるのかもしれない。

しかし、実の子を<死>という形で送らなければならなかったことを思えば、そうなってしまってもおかしくはないのかもしれないな。

そんな風にして愛されることを相手が望んでいなければそれは好ましくなくても、二人の場合は、ホトリ自身が安心できているんだから、それでいいんだと僕は思う。

余人がとやかく言うことじゃないと思うんだ。

だから僕も何も口出しはしない。

それでも、そこまでやっても、子が親よりも先に逝くことはある。

ホトリも、そうだった。

女もホトリもすっかり歳を取ってしまった頃、ホトリが死病を患った。女は、またしても<子>を送ることになったんだ。

だけど、女は、見る見る衰えていくホトリの面倒を献身的に看ながらも、穏やかなかおをしていた。何十年と世話を続けてきたことで、女自身、何か腑に落ちるものがあったらしい。

実の子の時には果たせなかった<務め>を、今度こそ果たせたという実感があったのかもな。

こうして、髪が白くなり深いしわが刻まれたホトリを、同じように髪が白くなりしわに包まれた女が最後までいつくしんで、命の終わりを見届けた。

自分の膝の上で、穏やかに眠るようにして事切れたホトリの頭を労わるように撫でていた女も、涙を流しながらもそのかおはやはり穏やかだった。

満たされた表情をしていたと言ってもいいかもしれない。

「ホトリ……ゆっくりおやすみ……」

女はそう言って、ホトリの額にそっと口付けた。



その後、季節が一巡りする前に、女も、満足したように笑みを浮かべながら命を終えた。

普通の人間からすればまったく幸せになど見えなかったかもしれない。

でも、僕には、幸せそうに見えたんだ。

そして僕は、女を、ホトリの亡骸を埋めた場所のすぐ脇に葬った。

これもただの気休めに過ぎないことは分かってる。死んだ者とは二度と会えない。だから死は悲しく辛く、ゆえに<命を奪うこと>を人間は禁忌としたんだ。

だけど、気休めでしかなくても、『こうしたい』という気持ちは忌むべきものじゃないと僕にも思える。

二人を埋めた場所には、今では立派な木が立っている。二人の亡骸を糧に芽を出したものが育ったんだ。

他にも、僕が亡骸を葬った生贄達の分だけ、木や草が生い茂っている。

そうだ。命はこうして巡っている。それは嘘偽りない事実だ。それ自体が<理>だ。

けど……

だからこそ、滅びることがない僕は、その<理の環>から自分が外れていることも分かってしまうんだ……

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