だから人間は嫌いなんだ……!

京衛武百十

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人間らしい生き方を

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オルカは、本当に犬のように僕に懐いた。他の生贄達が呆れるくらいに。

ただ、彼女のそういう振る舞いは、この洞の中になんとも言えない柔らかい空気をもたらして、オルカが僕にじゃれ付く度に、笑い声が漏れるまでになったんだ。

すると、それまで死んでないだけで生きる気力のようなものが見えなかった他の生贄達にも生気が戻り、ここでも人間らしい生き方をしようという雰囲気が生まれてさえきた。

拾い集めてきた石で竈を作り、火を熾し、僕が捕らえてきた獣の肉を自分で炙って食べるように。

そうしているとますます人間らしさを取り戻していって、<生活>を営むようにも。

オルカは、そんな人間達の中で笑顔を振りまいていたよ。

何十年もそうして、歳を取ってからでさえ犬っぽい振る舞いは最後まで変わらずだったけどな。

老いて目も見えなくなるとそれこそ僕の傍を離れなくなって、赤子のように僕に甘えながら命を終えた。

本当に最後まで面倒くさい奴だった。

でも、嫌いじゃなかったよ。

それに、オルカが来てからだったしな。生贄達がここに集落を築き出したのは。

その意味じゃ、あいつが生贄達に人間らしく生きるきっかけを作ったのかもしれない。

正直、僕にとってみれば、寝床にしていた洞に勝手に他の獣が住み着いたみたいなものだったし。

奇妙なものだよ。オルカ自身は犬みたいだったのに、他の奴らは人間らしくなっていくんだから。

ヒャクは、オルカとは似ても似つかないのに、不思議とどこか相通ずるところがある気もする。

ああ、ヒャクも、何となく犬っぽいところがあるのか。

僕に懐いているしな。

かと思うと、本当に獣のようなのもいたな。

そいつは、『頭の足りない』奴だった。自分の名前すら言えない奴で、オルカと同じように、

<厄介払い>

として生贄に供されたのがよく分かった。

人間のそういうところも嫌だったな。自分達の手に負えない者を僕に始末させようとして、生贄というていで寄越すんだ。

服を着せようとしても脱いでしまうし、糞も小便もところ構わずするしで、『獣のような』じゃなくて、

<人間の姿をした獣>

だったか。

オルカよりも百年ほど後に来たから、集落もそれなりに形になってきてて、生贄達はお互いに力を合わせながら生活していた頃だった。

なのにそいつは、人間のようにはできなくて、他の生贄達も手を焼いていたな。

でも、そんな生贄達の中に、そいつのことをやけに気に掛けているのもいて、面倒を見ていたんだ。

その生贄も、子を流行り病で亡くした所為で頭が壊れた奴だった。それで、<人間の姿をした獣>をまるで自分の子のように扱いだしたという感じか。

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