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なんかちょっと恥ずかしいですね……

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ヒャクも、大人になるための準備として、針仕事も習っていた。

そうだ。今はまだ子供でも、あと数年でヒャクも<大人>になれる歳なんだ。

人間達は、男は、自分で働いてまともな稼ぎを得ることで、

女は、針仕事や料理をはじめとした家のあれこれができるようになることで、

<大人>と認められるようになるそうだ。

それがまあ、十五から十七くらいの話らしい。

彼女ももう十二だもんな。あと三年ほどの間にってことだ。

でも、ヒャクは、僕の見ている前で、布に鋏を入れ、いくつかの形に切り出して、それを針と糸で縫い合わせていって夕飯までの間に、着物を一つ、作ってしまったんだ。

「ほお? 大したものだな」

僕はその手際に素直に感心していた。

このくらいできるのは人間達にとっては当然のことだとしても、その、

『当然のことができる』

というのが実は簡単じゃなかったりするんだ。

何しろ人間は、

『相手を敬うのは人として当然の在り方』

と言いながら、実は相手を敬ってなんかいないというのがそれこそ当たり前のようにある。当然のことが当然としてできてないんだ。

僕のことだって、口では、

『敬ってる』

とか言いながら、実際には、いいように利用しようとしてるだけだ、僕が言ったことでさえ、自分達に都合が悪いとなったら信じない。

それが人間というものなんだ。

でも、ヒャクは、僕を敬ってくれる。僕の言ってることにちゃんと耳を傾けてくれる。

<人間としてできて当然のこと>

を当然のようにやってくれる。

それがすごいんだ。

ただ、針仕事の方は、手際は良かったものの、さすがにまだ着物の出来そのものは拙いと言ってもいいかもしれないな。さりとて、人前に出るために着るものでもない。この程度の出来でも十分だ。

「なんかちょっと恥ずかしいですね……」

自分でもまだまだ拙いものだというのが分かっているヒャクは、出来立ての着物を着てみせたけど、少し照れくさそうに頬を染めた。

「いや、お前の歳を考えれば十分だ」

僕も、正直に思ったことを口にする。ヒャクが作ったものを僕がなぜ笑う必要がある?

「ありがとうございます」

僕に笑顔を向けるヒャクが何だか眩しい。



こうして自分で作った着物を着たヒャクと一緒に飯にして、また温泉に入った。

街のほとんどの人間にとってはこんな風に毎日風呂に入るというのは大変な贅沢なんだそうだ。

でも、ヒャクは、宿を営んでいた家の子だけあって、宿の風呂には入り放題だったから、風呂に入れるのは嬉しいようだ。

彼女喜んでくれるのなら、僕も作った値打ちがあるというものだ。

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