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今の僕を作ったのは

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『最初から温泉を掘ればいいのに』

人間はそう言うかもしれないけれど、僕にとってはどちらも元々は必要のないことだからな。ヒャクのためにということで思い付いただけだ。実際にやってみてこっちの方がいいと思って。

行き当たりばったりでいいんだよ。

湧き出した温泉は、そのまま触ると人間では間違いなく皮膚がただれるほどの熱さだった。

でも僕はひび割れに手を突き込んで抉り、形を整えて、そこに森から取ってきた竹の節を抜いて筒にして斜めに差した。すると今度は竹筒の上から湯が溢れてくる。

そこで僕は、竈に使った石を積みなおして壇を作り、湯を沸かすのに使った鍋を並べて、竹筒から出た湯がいくつもの鍋の壇を経て風呂へと注がれるようにしたんだ。

すると、鍋の壇を下りてくる間に湯が幾分か冷めて、『そのままだと人間には少し熱いかな』程度のものになってくれた。

その様子を眺めながら、僕は思わず。

「変だな……」

と呟いてしまった。そうだ。実に珍奇で、見た目にも愉快なものになったと思う。

見た目を整えようと思えばなんとでもできる。だけど僕は何となくそれが気に入って、そのままにした。

きっとヒャクも、

『変ですね』

と言うに違いない。そんな彼女の姿を思い浮かべるだけでなんだか僕も愉快な気分になる。

目を覚ましたヒャクに見せるのが楽しみだ。

でも、まずは僕が入り心地を確かめるか。

服を脱ぎ、風呂に体を浸す。

うん、やっぱり人間には少し熱いだろうが、悪くない。しかも、鍋で沸かした湯に比べると僅かにぬめりも感じて、これがまた心地好い。

それを確かめながら、僕は、ここまでのことを思い出していた。

ヒャクが来てからのことだけじゃなく、もっと昔のことだ。僕がまだ、人間から<神>とか<竜神>とか呼ばれるようになる前のこと……



あの頃の僕は、たぶん、獣と同じだったと思う。自分でも何かを考えるということをせず、その場その場の気分で自分の振る舞いを決めていただけだった。

雨を降らせる気分になれば雨を降らせ、風を吹かせる気分になれば風を吹かせ、無性に暴れたくなった時には激しく身をよじって地を揺るがした。

けれど、いつの頃からか、人間が僕に対して祈りを捧げ始めると、僕のその<祈り>に込められたものを感じ取って、いろいろと考えるようになったんだ。

それを思うと、今の僕を作ったのは人間ということになるかもしれないな。

人間がいなければ、僕はきっと今でも、ただ獣のように振る舞っていただろうから。

始めのうちはそれでよかったんだ。人間の祈りも、

『今日も獲物がとれますように』

とか、本当に些細なものだったからな。

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