43 / 100
今の僕を作ったのは
しおりを挟む
『最初から温泉を掘ればいいのに』
人間はそう言うかもしれないけれど、僕にとってはどちらも元々は必要のないことだからな。ヒャクのためにということで思い付いただけだ。実際にやってみてこっちの方がいいと思って。
行き当たりばったりでいいんだよ。
湧き出した温泉は、そのまま触ると人間では間違いなく皮膚がただれるほどの熱さだった。
でも僕はひび割れに手を突き込んで抉り、形を整えて、そこに森から取ってきた竹の節を抜いて筒にして斜めに差した。すると今度は竹筒の上から湯が溢れてくる。
そこで僕は、竈に使った石を積みなおして壇を作り、湯を沸かすのに使った鍋を並べて、竹筒から出た湯がいくつもの鍋の壇を経て風呂へと注がれるようにしたんだ。
すると、鍋の壇を下りてくる間に湯が幾分か冷めて、『そのままだと人間には少し熱いかな』程度のものになってくれた。
その様子を眺めながら、僕は思わず。
「変だな……」
と呟いてしまった。そうだ。実に珍奇で、見た目にも愉快なものになったと思う。
見た目を整えようと思えばなんとでもできる。だけど僕は何となくそれが気に入って、そのままにした。
きっとヒャクも、
『変ですね』
と言うに違いない。そんな彼女の姿を思い浮かべるだけでなんだか僕も愉快な気分になる。
目を覚ましたヒャクに見せるのが楽しみだ。
でも、まずは僕が入り心地を確かめるか。
服を脱ぎ、風呂に体を浸す。
うん、やっぱり人間には少し熱いだろうが、悪くない。しかも、鍋で沸かした湯に比べると僅かにぬめりも感じて、これがまた心地好い。
それを確かめながら、僕は、ここまでのことを思い出していた。
ヒャクが来てからのことだけじゃなく、もっと昔のことだ。僕がまだ、人間から<神>とか<竜神>とか呼ばれるようになる前のこと……
あの頃の僕は、たぶん、獣と同じだったと思う。自分でも何かを考えるということをせず、その場その場の気分で自分の振る舞いを決めていただけだった。
雨を降らせる気分になれば雨を降らせ、風を吹かせる気分になれば風を吹かせ、無性に暴れたくなった時には激しく身をよじって地を揺るがした。
けれど、いつの頃からか、人間が僕に対して祈りを捧げ始めると、僕のその<祈り>に込められたものを感じ取って、いろいろと考えるようになったんだ。
それを思うと、今の僕を作ったのは人間ということになるかもしれないな。
人間がいなければ、僕はきっと今でも、ただ獣のように振る舞っていただろうから。
始めのうちはそれでよかったんだ。人間の祈りも、
『今日も獲物がとれますように』
とか、本当に些細なものだったからな。
人間はそう言うかもしれないけれど、僕にとってはどちらも元々は必要のないことだからな。ヒャクのためにということで思い付いただけだ。実際にやってみてこっちの方がいいと思って。
行き当たりばったりでいいんだよ。
湧き出した温泉は、そのまま触ると人間では間違いなく皮膚がただれるほどの熱さだった。
でも僕はひび割れに手を突き込んで抉り、形を整えて、そこに森から取ってきた竹の節を抜いて筒にして斜めに差した。すると今度は竹筒の上から湯が溢れてくる。
そこで僕は、竈に使った石を積みなおして壇を作り、湯を沸かすのに使った鍋を並べて、竹筒から出た湯がいくつもの鍋の壇を経て風呂へと注がれるようにしたんだ。
すると、鍋の壇を下りてくる間に湯が幾分か冷めて、『そのままだと人間には少し熱いかな』程度のものになってくれた。
その様子を眺めながら、僕は思わず。
「変だな……」
と呟いてしまった。そうだ。実に珍奇で、見た目にも愉快なものになったと思う。
見た目を整えようと思えばなんとでもできる。だけど僕は何となくそれが気に入って、そのままにした。
きっとヒャクも、
『変ですね』
と言うに違いない。そんな彼女の姿を思い浮かべるだけでなんだか僕も愉快な気分になる。
目を覚ましたヒャクに見せるのが楽しみだ。
でも、まずは僕が入り心地を確かめるか。
服を脱ぎ、風呂に体を浸す。
うん、やっぱり人間には少し熱いだろうが、悪くない。しかも、鍋で沸かした湯に比べると僅かにぬめりも感じて、これがまた心地好い。
それを確かめながら、僕は、ここまでのことを思い出していた。
ヒャクが来てからのことだけじゃなく、もっと昔のことだ。僕がまだ、人間から<神>とか<竜神>とか呼ばれるようになる前のこと……
あの頃の僕は、たぶん、獣と同じだったと思う。自分でも何かを考えるということをせず、その場その場の気分で自分の振る舞いを決めていただけだった。
雨を降らせる気分になれば雨を降らせ、風を吹かせる気分になれば風を吹かせ、無性に暴れたくなった時には激しく身をよじって地を揺るがした。
けれど、いつの頃からか、人間が僕に対して祈りを捧げ始めると、僕のその<祈り>に込められたものを感じ取って、いろいろと考えるようになったんだ。
それを思うと、今の僕を作ったのは人間ということになるかもしれないな。
人間がいなければ、僕はきっと今でも、ただ獣のように振る舞っていただろうから。
始めのうちはそれでよかったんだ。人間の祈りも、
『今日も獲物がとれますように』
とか、本当に些細なものだったからな。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
気まぐれな太陽の神は、人間の恋愛を邪魔して嬉しそう
jin@黒塔
ファンタジー
死ぬまでずっと隠しておこうと決めていた秘密があった。
身分の違う彼の幸せを傍で見守り、彼が結婚しても、子供を持っても、自分の片思いを打ち明けるつもりなんてなかったはずなのに…。
あの日、太陽の神であるエリク神は全てを壊した。
結ばれない恋を見ながら、エリク神は満足そうに微笑んでいる。
【王族×平民の波乱の恋】
あぁ、この国の神はなんて残酷なのだろう____
小説家になろうで完結したので、こちらでも掲載します。
誤字等は後に修正していきます。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる