だから人間は嫌いなんだ……!

京衛武百十

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もう会うこともないだろう

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剽賊ひょうぞくに身をやつしてまで守ろうとした弟、<イブリ>を喪ったそいつは、悔しさのあまり泣いた。自分の非力さが恨めしかったんだろう。この世の不条理さが憎かったんだろう。

どうしてこの世はこんなにも厳しいのかと。

だが、苦しんでいるのはお前達だけじゃない。今は僕のところにいるヒャクだって家族をすべて亡くして、その上で生贄として僕のところに寄越されたんだ。死を覚悟して。

そういう者はこの世にそれこそゴマンといる。

……が、人間には、目先の、自分の目で見えるものしか分からないというのも確かだろう。

「その味噌はくれてやる。冬が来る前にはそれなりに食うものも手に入りやすくなるだろう。川には魚も戻ってくるはずだ。それまで生き延びるんだな」

僕がそう告げて、残ったもう一つのかめを改めて担ぎなおして背を向けると、

「カブリ……俺の名前はカブリだ……この恩は、いつか返す……」

カブリと名乗ったそいつは、イブリの体を抱き締めたままそう言ったけど、僕は、振り返ることもなく、

「そうか……」

と呟いただけだった。

『どうせ、もう会うこともないだろう……』

と思ったから。



こうして、二つあった味噌の瓶の一つを失った僕だったけど、元より、僕とヒャクだけで食べ切るには一つでも多いくらいだから、まあ、無駄にならずに済んだと思っただけだった。

そして山に帰ると、洞の前で野草を摘んでいたヒャクに迎えられた。

「お帰りなさいませ」

僕を見るその目に安堵の色が浮かんでいる。

僕がいない間、少し不安だったんだろう。もちろん竜神である僕がどうにかなるとかではなく、自分が見捨てられたりという意味の不安だろうな。

でも、無駄な心配だ。こうして受け入れた限りは僕は見捨てない。お前が死ぬのも看取ってやる。

とは告げず、

「味噌だ……いいのが手に入ったぞ」

背負っていた瓶を手にして、彼女の前に掲げた。

「……!?」

それを見た途端に、ヒャクは、目を大きく見開き、

「それは、まさか、ヒャクリ亭の……?」

と声を上げた。

「分かるか?」

僕が聞き返すと、

「はい、私も何度も手伝って味噌を仕込みましたから。見慣れた瓶の模様です……」

とのことだった。なるほど。瓶の模様そのものを覚えていたのか。

この手の瓶は一つとして同じ模様になることはない。だから模様を覚えれば判別がつく。

そうなると、カブリのところに一つ置いてきてしまったのは失敗だったかもしれない。ヒャクにとっては味噌だけでなくこの瓶そのものが家族との思い出だっただろうし。

でもまあ、一つでも残っただけマシというものか。

家に戻って土間に置いた瓶を、ヒャクは大事そうに抱えて、やはり涙していたからな。

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