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悪くない出来

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そうして目を覚ましたヒャクを連れて、今日のところは洞に帰る。

野草や木の実もたくさん採れたからな。彼女が自分で持って帰れる程度で抑えておかないと。

洞の中の家に戻ると、今度は調理の仕方を教える。

ヒャクも料理はできるようだけど、あくまで街で手に入る材料を使っての料理だからな。それとは違ったやり方が必要なものもあるんだ。

野草についても、まず水に浸して灰汁を取るのと取らないのとでは味がまったく違ってしまうものもある。加えて、調理の時にも毒のあるのが間違って紛れ込んでないか確かめる必要があるから、それについても、

「注意を怠るな」

と告げる。

「はい……!」

ヒャクはやっぱり真剣な表情で僕の言葉に耳を傾けていた。

それが大事だ。どうやら僕は、彼女にとって、

『言葉に耳を傾けていい相手』

になれたようだ。

仮にも人間が<竜神>と呼んでる者だから言葉に耳を傾けるのは当然だと思うかもしれないが、だったらどうして、僕が『生贄は要らない』と人間に告げた時には耳を傾けなかった? 僕はちゃんと、

『竜神だ』

と名乗ったぞ? それなのに人間達は信じなかった。ヒャクよりもずっと歳を経た、分別があるはずの奴らだったのに。

つまりはそういうことだ。

相手を信用できなければ、それがたとえ竜神であろうとなかろうと言葉に耳を貸す気にはなれないという何よりの証だ。

だから今の僕は、ヒャクにとっては信用できる相手だということなんだ。

それをわきまえていない人間が多いから、自分の振る舞いを省みることもできない。自分が信用できない振る舞いをしているから相手が信用してくれないのを、相手の所為にする。

まあ、そう思いたい気持ちは僕にもないわけじゃないけどな。

こうして一つ一つ丁寧に教えながら、晩飯を作った。塩で揉んで干した猪肉と、野草と、木の実を磨り潰して練った団子の鍋だ。僕はあくまで教えるだけで、実際に作ったのはヒャクだ。しかし、さすがに元々料理ができるから、悪くない出来になったと思う。

「美味しい……!」

肉と野草と木の実の旨みが上手く絡み合い、いい味になったらしい。本当なら味噌があればもっと美味くなるんだが、今のところはこれで上等だろう。

ヒャクは街には帰れないからいずれ僕が待ちに出て味噌を買ってこよう。そのくらいの贅沢はいい。彼女にはそれを許されていい値打ちがある。

と、彼女が椀に具を掬い、僕に差し出した。

「竜神様も、お一つ、いかがですか? お食事は必要ないとおっしゃっていましたから、食べられないのなら無理にとは申し上げませんが……」

ふん。強情な上に利口なやつだ。

『僕が好きにさせていることを気にする必要はない』

と僕が言ったのを、もう理解してきたか。

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