だから人間は嫌いなんだ……!

京衛武百十

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群れることでしか生きられないお前達が

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こうして改めて、ヒャクは、生贄達が作った集落に唯一残った家に住み、僕に祈りを捧げる毎日を送ることになった。

けれど、今度の<祈り>は、僕への請願ではなく、願いを聞き届けてもらえたことへの感謝の祈りだった。

朝起きて半時ほど祈りを捧げた後、洞の外へと出て僕が直した桶に水を汲み、それをかめに溜める。その日に使う水として。

彼女が使っている桶は、かつての生贄が、輪切りにした丸太を、尖らせた石でくり貫いて作ったものだからそれ自体が重く、そこに水を汲んで何度も運ぶのは決して楽な仕事ではなかったものの、ヒャクは、不平一つ口にせずそれをこなした。僕の傍で生きるには必要なことだからと言って。

「竜神様のお傍でお仕えできるだけで私は幸せです……」

嘘偽りない笑顔で彼女は告げた。

それはたぶん、僕が彼女の母親であるクレイの姿をしているからというのもあるんだろう。本当の母親ではなくても、<面影>と言うにはあまりにもそのままの姿をしている僕の傍を離れ難いんだろうな。

そして、やはり半時ほどの時間を掛けて水を瓶に溜め、それから囲炉裏に火を熾して鍋に水を張り、湯を沸かし始める。ようやく朝飯の用意に取り掛かったんだ。

三日ばかりそうしていた彼女を見て、僕は、

「朝起きてまず火を熾して鍋に水を張って沸かしている間に祈ればいいのではないか? 瓶に水を汲むのも飯の後でいいだろう」

と声を掛けた。

するとヒャクは、

「お祈りと水汲みは先にするものだと教わりました。それを破ってもいいのですか?」

戸惑った様子で聞き返してきたから、

「人間の街ではどうでも、僕のところでは僕の言ったとおりにすればいい。お前達人間の慣習など僕には関係ない」

きっぱりと告げてやった。

「は…はい、分かりました……!」

そうして彼女は、僕が言ったとおり、起きてまず火を熾し水を沸かしている間に祈りを捧げて、朝飯を作り、それを食ってから水汲みをするという形に変えた。

とかく人間達は、わざと不合理で面倒なやり方をして自らに苦行を課し、それによって自分がいかに勤勉で信心深いかを見せようとする癖があるが、僕に言わせればそんなもの、ただ己自身に対する言い訳としてやっているようにしか見えない。

あまりにも無意味だ。

『自分はこんなにも努力をしている』

と見せたいだけじゃないか。

僕がそういう浅ましい考えを喜ぶとでも思っているのなら、それこそが僕に対する侮辱だよ。

くだらないことに時間を費やしている暇があるなら、もっと己を知れ。

もっとこの世を見ろ。

人間同士でいがみ合っていて、何が得られると思うんだ。

群れることでしか生きられないお前達が。

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