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僕はお前達に崇めてもらいたいわけじゃない

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「竜神様……!?」

僕の姿に気付いた途端に跳ね起きて、ヒャクはその場に平伏しようとした。

だけど僕は、

「やめろ!」

強く叱責する。すると彼女はまた固まってしまった。そんな彼女に言う。

「僕はお前達に崇めてもらいたいわけじゃない。お前達はお前達で生きればいいんだ。そうすれば僕は僕で好きにさせてもらう。

顔を上げろ、ヒャク。言いたいことがあるなら僕の顔を見て言え。自分が謙れば相手が言いなりになってくれるとか思うな。頼みごとを相手が聞くかどうかは、相手が決めることだ。頼む側にそれを決めることはできない。そのことをわきまえろ。

相手を敬えばこそ、無闇に頭を下げるな。お前達人間が何かを願う時に頭を下げるのは、相手を縛ろうとする<呪い>だ。『頭を下げられれば断りづらくなる』という心の動きを利用しようとしてるに過ぎない。

だが、人間じゃない僕にはそんなもの通じない。むしろ、お前達が頭を下げれば下げるほど、お前達の醜さが際立つだけなんだ。

ヒャク、お前は何のためにここに来た? <呪い>で僕を縛って人間の道具として使うためか?」

僕のその言葉に、

「いえ! 決してそのようなことは……!」

彼女は頭を上げて僕を見て言った。

彼女の目を見れば、なるほど僕をいいように利用してやろうという考えは彼女にないことは分かる。ヒャクは本心から自分達の窮状を打破する最後の手段として僕に懇願しに来たんだろう。

でも、僕の人間に対する不信感も、決して軽いものじゃない。ここまで散々、僕をいいように利用しようとしてきたことを忘れることはできない。

だから言う。

「お前達人間は、僕をダシにして、同じ人間を道具のように使おうとしてきたじゃないか。それを僕が知らないとでも思ってるのか?

僕は生贄を寄越せだなんて、これまで一度だって言ったことはないぞ? なのにお前達人間はこうして生贄を作り続けてきた。僕がやめろと言っても聞き入れずにだ。

どうやってだ? 僕が生贄を必要としてると、お前達人間が勝手に決め付けて、生贄を作る言い訳に利用してきたんじゃないか。

『自分達はこれだけのことをやった。だから報われるべきだ』

お前達はいつだってそう考えてきた。そのための言い訳に、方便に、僕を利用したんだ。

僕は、お前達人間のそういう醜さにはもううんざりなんだ!

お前達人間は、お前達人間の力で生きろ。そして、力が及ばない時には潔くそれを受け入れて死ね。

それが『生きる』ということじゃないのか?

死ねない僕にはできないことだけどな」

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