上 下
16 / 100

猪団子鍋

しおりを挟む
『お前達がどうなろうと僕の知ったことじゃない』

僕は、あらん限りの侮蔑と拒絶を込めてそう言ったつもりだった。

なのに、ヒャクは、すぐさま祠の前に膝を着いて、また祈り始めたんだ。

しかも今度は、喉が渇けば水場で潤し、糞や小便がしたくなれば洞から出て木陰で用を足しと、やり方を変えてきた。

僕が洞の外に出して体を洗ったりしたことで、先のやり方では駄目だと思ったらしい。

それでも、<蚯蚓みみず団子>しか食べていない彼女の体は、長くは耐えられなかった。

次の日にはもう、また人事不省に至り、その場に倒れ伏す。

祠の中で不貞寝していた僕は、不承不承ふしょうぶしょう体を起こして、再び彼女の前に立つ。そして抱き上げて、祠を通り抜け、生贄達が作った集落で唯一残った家に入り、積もっていた埃を外に追い出して、朽ちかけていた布団を直し、そこにヒャクを寝かせた。まあ、布団と言っても、獣の毛皮を縫い合わせてその中に干した草を詰め込んだものだけど。

それから洞の外に出てししを捕らえ、木の実を拾い、家に戻る。

土間に転がっていた、錆びて穴の開いた鍋を直し、水を張り、囲炉裏に火を熾し、湯が沸くまでの間に猪を捌いて木の実を磨り潰して一緒に団子にして、鍋に放り込んだ。そこに塩の岩を砕いたものも入れて煮る。

まあ、蚯蚓団子よりは少しはまともなものにはなっただろう。

そして頃合を見て、僕はヒャクを起こした。

「……竜神様…っ!?」

僕の姿を見て彼女は慌てて体を起こそうとするけど、力が入らなくて起こせない。

そんなヒャクに、僕は、椀に掬った猪団子を匙で小さくして差し出した。

「食え。ゆっくりとな。これは命令だ。口答えは許さん」

たっぷりと汁を吸った猪団子は、恭しくそれを含んだ彼女の口の中でほどけて、肉の旨みが広がっていくのが分かった。

「……」

途端に、ヒャクの目から涙が溢れる。自分が生きられることを悟ったんだろう。

それからも、僕は、少しずつ彼女に猪団子を与え、やがて彼女は、ほとんどまどろんだ中で何個目かの猪団子を飲み下して、すうすうと寝息を立て始めた。

腹が満たされて眠ってしまったんだ。

今度こそ、気を失ったんじゃなく、普通に寝たんだ。

それを確かめた僕は、残った猪の肉に塩の岩を細かく砕いたものをまぶしてすりこみ、並べた。こうしておけばしばらくはもつ。

本当は別にこんな手間を掛けなくてもいいんだけど、ヒャクが目を覚ますまで暇だったからね。

そうしていると、また小便の臭いが。ヒャクが寝小便をしたんだ。

ふん。気丈そうに見えてもまだ子供だってことだな。

僕は、洞の外に出て木の枝に干しっぱなしになっていた、ヒャクが元々着ていた着物を手に取り、集落に戻って崩れた家の中からやはり獣の毛皮と干した草で作った布団を引きずり出して直し、ヒャクが寝ている家に帰ったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...