8 / 100
出逢い
しおりを挟む
ヒャクという女の子を抱き上げて笑顔を見せるヒアカを僕が見詰めてると、クレイが、
「この子は、ヒャク。私達の娘なんだ。ちなみに<ヒャクリ亭>は、ヒャクが生まれたのを契機に名前を変えたんだ。以前は<ヒャッカ亭>って名前だったんだけどね。当然、ヒアカが生まれた時に付けられた名前だ」
僕に説明してくれた。するとヒアカも僕の方に向き直り、
「うちの宿は、曾祖父さんが、祖父さんが生まれた時に始めた宿でよ。代々、夫婦に最初の子供ができるとその子にちなんだ名前に変えてきたんだ。で、今はヒャクの名にちなんで<ヒャクリ亭>。商売としちゃああんまり褒められた出来じゃないが、家族が食ってく程度にゃやれてるし、不満はねえぜ」
と、僕が訊いてもいないのに語ってきた。
「へえ」
僕も、取り敢えず調子を合わせておく。別にケチをつける必要もないからね。
そんな中で、ヒャクも、僕を見て、
「お客さん? いらっしゃい! ヒャクリ亭へようこそ!」
両親そっくりの人懐っこい笑みを浮かべながら、歓迎の意を示してくれる。
だから僕も、
「はい、よろしくお願いします」
子供相手に仏頂面も大人げないと思ったから、笑顔で返させてもらった。
これが僕とヒャクとの出逢いだったな。
<ヒャクリ亭>は、ヒアカの両親が実質切り盛りしている宿だった。
ヒアカとクレイが共に自身番として街を守っているからね。
「俺の両親、ヒハルとカアリだ。二人も昔は自身番でよ。で、今は身を引いて宿に専心してんだ。俺とクレイも、歳取って今ほど動けなくなりゃ、同じようにってこったな」
<飯屋>を兼ねた広間で食事をとりつつ、ヒアカはいろいろと語ってくれる。
その間、ヒャクは、甲斐甲斐しく、僕の膳を運んでくれたり、茶を注いでくれたりした。
こうして子供まで働かないといけないというのは思うところもないわけじゃないけど、今の人間達の力じゃ、まだまだ子供の力にも頼らなくちゃいけないということだろうし、そこまで口は出さない。
それに、ヒャクも楽しそうに働いている。嫌々働かされてるわけじゃないのが分かる。それはつまり、幼いヒャクにとっても、『力になりたい』と思わせる両親や祖父母だということだろうな。
いいことだと思う。
親との関係が悪ければ、子供だって積極的に力になりたいと思わないだろう。だから嫌々働かされることになる。嫌々働かされている子供は、こんな表情はしない。
そしてヒアカもクレイも、ヒアカの両親のヒハルとカアリも、いい表情をしてる。
それは、僕にとっても心地好い光景だった。こういうところだけを見ていれば、人間も悪いものじゃないって気がしてくる。
このままでいってほしいものだと、この感じでいってくれれば僕も穏やかに過ごせるのになと、思ったのだった。
「この子は、ヒャク。私達の娘なんだ。ちなみに<ヒャクリ亭>は、ヒャクが生まれたのを契機に名前を変えたんだ。以前は<ヒャッカ亭>って名前だったんだけどね。当然、ヒアカが生まれた時に付けられた名前だ」
僕に説明してくれた。するとヒアカも僕の方に向き直り、
「うちの宿は、曾祖父さんが、祖父さんが生まれた時に始めた宿でよ。代々、夫婦に最初の子供ができるとその子にちなんだ名前に変えてきたんだ。で、今はヒャクの名にちなんで<ヒャクリ亭>。商売としちゃああんまり褒められた出来じゃないが、家族が食ってく程度にゃやれてるし、不満はねえぜ」
と、僕が訊いてもいないのに語ってきた。
「へえ」
僕も、取り敢えず調子を合わせておく。別にケチをつける必要もないからね。
そんな中で、ヒャクも、僕を見て、
「お客さん? いらっしゃい! ヒャクリ亭へようこそ!」
両親そっくりの人懐っこい笑みを浮かべながら、歓迎の意を示してくれる。
だから僕も、
「はい、よろしくお願いします」
子供相手に仏頂面も大人げないと思ったから、笑顔で返させてもらった。
これが僕とヒャクとの出逢いだったな。
<ヒャクリ亭>は、ヒアカの両親が実質切り盛りしている宿だった。
ヒアカとクレイが共に自身番として街を守っているからね。
「俺の両親、ヒハルとカアリだ。二人も昔は自身番でよ。で、今は身を引いて宿に専心してんだ。俺とクレイも、歳取って今ほど動けなくなりゃ、同じようにってこったな」
<飯屋>を兼ねた広間で食事をとりつつ、ヒアカはいろいろと語ってくれる。
その間、ヒャクは、甲斐甲斐しく、僕の膳を運んでくれたり、茶を注いでくれたりした。
こうして子供まで働かないといけないというのは思うところもないわけじゃないけど、今の人間達の力じゃ、まだまだ子供の力にも頼らなくちゃいけないということだろうし、そこまで口は出さない。
それに、ヒャクも楽しそうに働いている。嫌々働かされてるわけじゃないのが分かる。それはつまり、幼いヒャクにとっても、『力になりたい』と思わせる両親や祖父母だということだろうな。
いいことだと思う。
親との関係が悪ければ、子供だって積極的に力になりたいと思わないだろう。だから嫌々働かされることになる。嫌々働かされている子供は、こんな表情はしない。
そしてヒアカもクレイも、ヒアカの両親のヒハルとカアリも、いい表情をしてる。
それは、僕にとっても心地好い光景だった。こういうところだけを見ていれば、人間も悪いものじゃないって気がしてくる。
このままでいってほしいものだと、この感じでいってくれれば僕も穏やかに過ごせるのになと、思ったのだった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
気まぐれな太陽の神は、人間の恋愛を邪魔して嬉しそう
jin@黒塔
ファンタジー
死ぬまでずっと隠しておこうと決めていた秘密があった。
身分の違う彼の幸せを傍で見守り、彼が結婚しても、子供を持っても、自分の片思いを打ち明けるつもりなんてなかったはずなのに…。
あの日、太陽の神であるエリク神は全てを壊した。
結ばれない恋を見ながら、エリク神は満足そうに微笑んでいる。
【王族×平民の波乱の恋】
あぁ、この国の神はなんて残酷なのだろう____
小説家になろうで完結したので、こちらでも掲載します。
誤字等は後に修正していきます。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる