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新生活
これが私の役目ですから
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そうしてラーメンを食べた後は、風呂だ。そしていつものように錬義に体を洗ってもらう。すっかりそれが習慣になっていた。『そういうもの』と斬竜は認識したようだ。
けれど、別にそれで構わない。彼女にかしずくのは苦にならない。何しろ相手は、
<凶竜の姫様>
なのだ。自分はこの世界で一番の忠臣でいい。素直にそう思える。
それから二人で湯船に浸かって寛ぐ。彼女が自分に体を預けてくれているのも嬉しい。それだけ心を許してくれているということなのだから。
「愛してる、斬竜……」
囁くように錬義は言うものの、斬竜には言葉の意味はまだ伝わらない。
「……?」
不思議そうに少し振り返っただけだ。その横顔がまた愛おしい。
風呂から上がるとウッドデッキに出て、そこに置かれたロッキングチェアに腰掛けると、斬竜も彼の膝に座ってきた。彼女にとってもそれが当たり前になってきている。
そんな二人を、草原の側から流れてきた風が撫でていく。
空には、初めて出逢った時にも見た、恐ろしいまでの濃密な星々。そこに落ちていきそうな錯覚さえ再び覚える。
とても七百万人もの人間がこの地に住んでいるとは思えないが、それを言うなら、ほぼ自然のど真ん中なので、草原にも密林の側にも、それこそ無数の生き物達が今も命のドラマを繰り広げているはずだ。不思議とその気配は伝わってこない。
と、
「オオオオオオ~ン……」
遠くの方で獣の遠吠え。これはおそらく<レオン>と呼ばれる獣人のそれだろう。すると、
「ウォオオオ~ン」
応えるように再び遠吠えが。仲間同士で連絡を取り合っているのかもしれない。
この場に二人きりのような気はしても、やはり自分達は無数の命に取り囲まれているのだというのを再認識する。
しばらく涼んで体のほてりが収まったら、部屋に戻る。するとミネルバが洗濯をしてくれていて、
「ありがとう。ミネルバ」
錬義がそう労いの言葉を掛けた。それに対してミネルバは、
「これが私の役目ですから」
首を少し傾げながら言った。表情を作ることのできないホビットMk-XXXの体で、感情のようなものを表すための仕草だった。
無論、ロボットであるミネルバに感情はないものの、こういう何気ない仕草が人間の心理にプラスの影響を与えることがあるのは分かっていた。ただしそれも、個人によって変わるので注意が必要である。朋群人の中にはまだそこまでの者はいないが、ロボットが人間のような仕草をすることに生理的嫌悪感を抱く地球人もいたのである。
けれど、錬義はそうではないので、ミネルバも遠慮はしなかった。
けれど、別にそれで構わない。彼女にかしずくのは苦にならない。何しろ相手は、
<凶竜の姫様>
なのだ。自分はこの世界で一番の忠臣でいい。素直にそう思える。
それから二人で湯船に浸かって寛ぐ。彼女が自分に体を預けてくれているのも嬉しい。それだけ心を許してくれているということなのだから。
「愛してる、斬竜……」
囁くように錬義は言うものの、斬竜には言葉の意味はまだ伝わらない。
「……?」
不思議そうに少し振り返っただけだ。その横顔がまた愛おしい。
風呂から上がるとウッドデッキに出て、そこに置かれたロッキングチェアに腰掛けると、斬竜も彼の膝に座ってきた。彼女にとってもそれが当たり前になってきている。
そんな二人を、草原の側から流れてきた風が撫でていく。
空には、初めて出逢った時にも見た、恐ろしいまでの濃密な星々。そこに落ちていきそうな錯覚さえ再び覚える。
とても七百万人もの人間がこの地に住んでいるとは思えないが、それを言うなら、ほぼ自然のど真ん中なので、草原にも密林の側にも、それこそ無数の生き物達が今も命のドラマを繰り広げているはずだ。不思議とその気配は伝わってこない。
と、
「オオオオオオ~ン……」
遠くの方で獣の遠吠え。これはおそらく<レオン>と呼ばれる獣人のそれだろう。すると、
「ウォオオオ~ン」
応えるように再び遠吠えが。仲間同士で連絡を取り合っているのかもしれない。
この場に二人きりのような気はしても、やはり自分達は無数の命に取り囲まれているのだというのを再認識する。
しばらく涼んで体のほてりが収まったら、部屋に戻る。するとミネルバが洗濯をしてくれていて、
「ありがとう。ミネルバ」
錬義がそう労いの言葉を掛けた。それに対してミネルバは、
「これが私の役目ですから」
首を少し傾げながら言った。表情を作ることのできないホビットMk-XXXの体で、感情のようなものを表すための仕草だった。
無論、ロボットであるミネルバに感情はないものの、こういう何気ない仕草が人間の心理にプラスの影響を与えることがあるのは分かっていた。ただしそれも、個人によって変わるので注意が必要である。朋群人の中にはまだそこまでの者はいないが、ロボットが人間のような仕草をすることに生理的嫌悪感を抱く地球人もいたのである。
けれど、錬義はそうではないので、ミネルバも遠慮はしなかった。
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