凶竜の姫様

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
8 / 96
出逢い

錬義、ビバークを決める

しおりを挟む
「取り敢えず、あの子にもう一度逢いたいし、この辺りでビバークするか」

錬義れんぎは、特に困った様子もなく、周囲を見回しながらそう言った。

しかしここは、鵺竜こうりゅうの生息域の真っただ中。新天地フロンティアハンターとしては、普通は高度一千メートル以上の山岳地を目指す。

と言うのも、鵺竜こうりゅうの多くは、その巨体ゆえか、空気がわずかでも薄くなると途端に動きが鈍くなり、場合によっては死に至ることもあるのだ。だから、標高にすれば五百メートル程度の場所までしか生息していない。

そう考えると、平野部以外であれば人間が住むに適した場所も多そうではあるものの、今度は鵺竜こうりゅうの一部が小型化に舵を切って進化したらしい、<亜竜ありゅう>という大型の猛獣が多数住んでおり、さすがに『安全に暮らす』とはなかなかいかないのである。

その点、<錬是れんぜ>と呼ばれる台地の上には、亜竜ありゅうからさらに小型に進化した、それこそトラやライオンやクマ程度の猛獣がいる感じになるので、住むには問題ないのだ。

多数のロボットが集落の周囲を常に警戒してくれていることもあり、まれに<凶竜>という天災レベルの脅威が現れるとはいえ、それはまあ台風や地震のようなものでしかないとも捉えることができるゆえ、これまた大きな問題にはならないのだという。

鵺竜こうりゅうであればそれこそ体長三十メートルクラスのもざらだし、亜竜ありゅうであっても体長十メートルを超えるものが珍しくない上に数も多く、安心して暮らすのは難しいのだ。

なので、鵺竜こうりゅうは元より亜竜ありゅうもほぼいない場所で、かつ人間が暮らすに適した環境となると、どうしても限られてくる。

標高三千メートル以上であれば亜竜ありゅうもほぼいなくなるが、今度は標高が高すぎて人間が適応するにも容易ではない。

人間の世界である<錬是れんぜ>がある地は、標高千メートル程度で、大気の濃度も気圧もちょうど人間に適しており、それでいて周囲のすべてを千メートル級の断崖に囲まれているという<奇跡の天然の要害>なのである。さすがにそのような場所は、ここまでまだ確認されていない。

今はまだ人口が七百万人程度なので深刻な状況ではないものの、今の人口増加の傾向では、千年後には現在の自然環境と折り合いをつけるのも困難になるという試算が出ている。

『まだ一千年もある』と思うかもしれないが、だからといって手をこまねいていては『気付いたら手遅れ』ということは十分に有り得るので、余裕のあるうちから対策するのがここでは当たり前なのだ。

そんなこの世界に生きる錬義れんぎは、野生のメンタリティを備えた人間なのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

秋津皇国興亡記

三笠 陣
ファンタジー
 東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。  戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。  だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。  一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。  六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。  そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。  やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。 ※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。 イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。 (本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。

べちてん
SF
生まれつき体の弱い少女、夏凪夕日は、ある日『サンライズファンタジー』というフルダイブ型VRMMOのゲームに出会う。現実ではできないことがたくさんできて、気が付くとこのゲームのとりこになってしまっていた。スキルを手に入れて敵と戦ってみたり、少し食事をしてみたり、大会に出てみたり。初めての友達もできて毎日が充実しています。朝起きてご飯を食べてゲームをして寝る。そんな生活を続けていたらいつの間にかゲーム最強のプレイヤーになっていた!!

最強ランクのロボットゲームパイロット、オーバーテクノロジーと異世界の影響を受けた現代地球を駆け抜ける!

アズドラ
SF
ゲーマーの主人公バラットはある日事件に巻き込まれる。 そこにはゲームのロボット、メールドロイドが乗り手を待っていた、それを使い突然現れた魔獣と戦い倒して欲しいと頼まれてしまう。 この状況を打破できるのは自分だけ、急変するリアルを愛機と共に今駆け抜ける!! ロボット&ファンタジーのSFストーリー!!

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派
SF
『科学の魔女は、空色の髪をなびかせて宙を舞う』 高校を卒業後、亡くなった両親の後を継いで工場長となったニ十歳の女性――空鳥 隼《そらとり じゅん》 彼女は両親との思い出が詰まった工場を守るため、単身で経営を続けてはいたものの、その運営状況は火の車。残された借金さえも返せない。 それでも持ち前の知識で独自の商品開発を進め、なんとかこの状況からの脱出を図っていた。 そんなある日、隼は自身の開発物の影響で、スーパーパワーに目覚めてしまう。 その力は、隼にさらなる可能性を見出させ、その運命さえも大きく変えていく。 持ち前の科学知識を応用することで、世に魔法を再現することをも可能とした力。 その力をもってして、隼は日々空を駆け巡り、世のため人のためのヒーロー活動を始めることにした。 そしていつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。 魔法の杖に腰かけて、大空を鳥のように舞う【空色の魔女】と。 ※この作品の科学知識云々はフィクションです。参考にしないでください。 ※ノベルアッププラス様での連載分を後追いで公開いたします。 ※2022/10/25 完結まで投稿しました。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

アマルガム

シノヤン
SF
ホールと呼ばれる異次元と現実を繋ぐ狭間が出現し、そこを行き来する未確認生命体による事件や犯罪が多発する世界。世界最大の都市、スカ―グレイブで暮らしていたフリーターであるジン・イナバは、謎の男の手によって人間でありながら未確認生命体の力を持つ存在「アマルガム」へと変えられてしまう。強大すぎる力に戸惑う彼は、やがて未確認生命体犯罪の最終兵器として民間軍事会社「レギオン」に雇われる事となってしまうが…!?痛快すぎるサイバーパンク・ファンタジーが今、幕を開ける。 小説家になろう及びカクヨムでも掲載中です

処理中です...