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出逢い
錬義、新天地を目指す
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『<錬是>から一万二千キロ……新記録だな』
どこまでも落ちていきそうな印象さえある深い蒼穹を、機体のほとんどが布らしきものでできたいわゆる<ウルトラライトプレーン>が、まるで海を泳ぐマンタのようにゆったりと飛んでいた。
そして、風防の類もない剥き出しの操縦席で、防寒服とゴーグルを着けただけの青年が、一見するとデジタル表示のようにも見えつつ、実はフィラメントを用いた棒状の小さな<電球>を、デジタル表示になぞらえて配置してあるだけという、非常にアナログな計器類を確認しながら、
『ま、基幹ドローンの通信圏外だし、実際に新記録になるかどうかは、錬是に帰れてからってことだけどな』
そんなことを考えていた。
彼の名は、<錬義>、人間が住む世界<錬是>からこのウルトラライトプレーンで飛び立ち、新天地を求める<新天地ハンター>とも呼ばれる一種の冒険者であった。
もっとも、彼自身の興味は、新天地よりも、<鵺竜>と呼ばれる、この惑星に最も多く生息するとされている巨大な<竜>に大きく向けられているが。鵺竜の調査のついでに新天地も探していると言った方が正しいだろう。
事実、
「ああ、いるいる♡ あれは、<エレファントス竜>の亜種かな? これまで見付かってるものより体色が濃い気がする。後で確認してみよう……!」
弾んだ声で口にしながら、地上の草原を歩く、頭から尻尾の先までであれば三十メートルはありそうな巨大な<恐竜に似た生き物>に笑顔を向けていた。正確には、<首長竜に似た生き物>だが。
いずれにせよ相当好きなのがその様子だけで分かる。
なお、彼が見ている<恐竜に似た生き物>こそが<鵺竜>であり、その正確な数も種類も生息範囲も、十分には知られていない。
なにしろこの惑星<朋群>に住む人間の数は、現在、約七百万人。朋群全体を調査するにはまだまだ数も少ないし、何より、安全に調査できるだけの<技術力>そのものがまったくなかったのだ。
人間が日常的に暮らしているのは、<錬是>と呼ばれる、面積は約三十六万二千平方キロメートルにして一千メートル級の断崖絶壁に取り囲まれた<台地>だけなのである。それ以外のほとんどを鵺竜が支配している状態と言えるだろうか。
当然、生物としての強さも鵺竜とは比べ物にならない。とは言え、ここ朋群に暮らす人間達は、ただ餌になるだけの存在でもないのだが。
それについてはまた適宜触れるとして、
「え……?」
錬義はその時、<有り得ないもの>を目にした。
「人間!? 女の子!?」
声を上げ、操縦席の上に固定された双眼鏡を取り出して、<それ>を見た。確かに、よく日に焼けた褐色の肌をしているが、一糸まとわぬ十代半ばくらいに見える少女が、エレファントス竜の亜種と思しき鵺竜に追われているのである。
もっともエレファントス竜は、地球で言う<首長竜>によく似た草食の鵺竜なので、普通、他の動物を狙うことはない。あるとすれば、何か攻撃を加えたか卵を奪おうとしたかだろう。
だがそれ以上に、
「なんでこんなところに人間が……!? くそっ、先客がいたのか!!」
自分が先にここまで辿り着いたと思っていたのにすでに人間がいて、錬義は声を上げてしまったのだった。
どこまでも落ちていきそうな印象さえある深い蒼穹を、機体のほとんどが布らしきものでできたいわゆる<ウルトラライトプレーン>が、まるで海を泳ぐマンタのようにゆったりと飛んでいた。
そして、風防の類もない剥き出しの操縦席で、防寒服とゴーグルを着けただけの青年が、一見するとデジタル表示のようにも見えつつ、実はフィラメントを用いた棒状の小さな<電球>を、デジタル表示になぞらえて配置してあるだけという、非常にアナログな計器類を確認しながら、
『ま、基幹ドローンの通信圏外だし、実際に新記録になるかどうかは、錬是に帰れてからってことだけどな』
そんなことを考えていた。
彼の名は、<錬義>、人間が住む世界<錬是>からこのウルトラライトプレーンで飛び立ち、新天地を求める<新天地ハンター>とも呼ばれる一種の冒険者であった。
もっとも、彼自身の興味は、新天地よりも、<鵺竜>と呼ばれる、この惑星に最も多く生息するとされている巨大な<竜>に大きく向けられているが。鵺竜の調査のついでに新天地も探していると言った方が正しいだろう。
事実、
「ああ、いるいる♡ あれは、<エレファントス竜>の亜種かな? これまで見付かってるものより体色が濃い気がする。後で確認してみよう……!」
弾んだ声で口にしながら、地上の草原を歩く、頭から尻尾の先までであれば三十メートルはありそうな巨大な<恐竜に似た生き物>に笑顔を向けていた。正確には、<首長竜に似た生き物>だが。
いずれにせよ相当好きなのがその様子だけで分かる。
なお、彼が見ている<恐竜に似た生き物>こそが<鵺竜>であり、その正確な数も種類も生息範囲も、十分には知られていない。
なにしろこの惑星<朋群>に住む人間の数は、現在、約七百万人。朋群全体を調査するにはまだまだ数も少ないし、何より、安全に調査できるだけの<技術力>そのものがまったくなかったのだ。
人間が日常的に暮らしているのは、<錬是>と呼ばれる、面積は約三十六万二千平方キロメートルにして一千メートル級の断崖絶壁に取り囲まれた<台地>だけなのである。それ以外のほとんどを鵺竜が支配している状態と言えるだろうか。
当然、生物としての強さも鵺竜とは比べ物にならない。とは言え、ここ朋群に暮らす人間達は、ただ餌になるだけの存在でもないのだが。
それについてはまた適宜触れるとして、
「え……?」
錬義はその時、<有り得ないもの>を目にした。
「人間!? 女の子!?」
声を上げ、操縦席の上に固定された双眼鏡を取り出して、<それ>を見た。確かに、よく日に焼けた褐色の肌をしているが、一糸まとわぬ十代半ばくらいに見える少女が、エレファントス竜の亜種と思しき鵺竜に追われているのである。
もっともエレファントス竜は、地球で言う<首長竜>によく似た草食の鵺竜なので、普通、他の動物を狙うことはない。あるとすれば、何か攻撃を加えたか卵を奪おうとしたかだろう。
だがそれ以上に、
「なんでこんなところに人間が……!? くそっ、先客がいたのか!!」
自分が先にここまで辿り着いたと思っていたのにすでに人間がいて、錬義は声を上げてしまったのだった。
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