上 下
571 / 571
第三幕

今は一時、筆を休めようかな

しおりを挟む
僕達はこうして、たくさんのことを考え、心に刻み、自らに言い聞かせながら生きている。

それを、

『面倒臭い』

と吐き捨て嘲る人間も多いけれど、そうやって自身で考え理解し自らを律することを放棄した者のしわ寄せを受けている人間がどれだけいるかさえ考えないんだね。

僕はそれを悲しいと思う。

『自分さえ良ければ』

『自分さえ楽ができれば』

『自分さえ楽しければ』

誰がどれほど苦しんでもかまわない。と、考えるのか……

それが自身に降りかかってくる可能性にさえ、目を瞑って。

そういう生き方をするのも自由なのだとしても、それなら、自らが犠牲になるとしても、泣き言を口にするのはおかしいよね。

逆に、自分がそうなりたくないのなら、

『難しいことは考えない。シンプルに生きる』

と考えるのは成立しないと理解する必要があるんじゃないかな。

自分だけが楽をして、それで誰かが守ってくれると考えるのは、無理があるよ。

『他人がそこまで考えてないのに、自分だけが考えるのは不公平だ!』

と言うかもしれないけど、それは、アオも言っている通り、

『他人の所為にしてる』

だけだよね。

『他人がやらないのなら自分もやりたくない!』

と言っているだけだよね。

だけど、それでは通じないんだ。それでは、自分で自分の身を守ることさえままならない。自分自身が<災いの種>を蒔くことを止められない。

他人に疎まれ、傷付けられる原因を、自ら作ることになるんだから。

それでなくても、一方的に攻撃を仕掛けてくる人間は少なからずいる。その上で自ら他人に攻撃される原因を作るとなれば、そのリスクは飛躍的に高まるんだ。

僕やアオが考えているのは、本質としては、

<リスクコントロール>

なんだよ。

相手の存在を認めなければ、相手もこちらを認めてくれないことが多い。

なるほど、こちらが認めていても認めようとしない人間も確かにいる。でもこれも、こちらがまず認めなければ、

『認める用意がある者まで敵に回す』

ことがあるんだ。

これは、自分の子供が相手でも同じ。まず親が子供の存在を認めなければ、子供も親の存在を認め難くなるんだよ。

だから僕達は、穏やかに生きることができた。余計な敵を作らず、災いを種を蒔かず、穏やかに生きることを心掛けたから。ここから先も僕達は、様々な経験をしながらも、大きな不幸に見舞われることもなく、穏当に生きることができた。

<リスクコントロール>が功を奏したんだよ。

さくらを見送った後のエンディミオンも、彼の子孫らが住む家で、ただ、草花に囲まれて、隠遁生活を続けられてる。

悠里ユーリ安和アンナももちろん元気だ。椿つばきの孫達にも家族ができて、幸せに暮らしている。



吸血鬼と人間の関係については、まだまだ大きく進展する気配はない。僕が生きている間には、難しいかもしれない。

けれど、それでもかまわない。焦る必要はない。



僕も、人間の目から見ても<青年>と呼ばれるようなそれに成長した。ただ、アオを超える女性には、まだ、巡り会えていない。



まだ、<終わり>ではないけど、今は一時ひととき、筆を休めようかな。






しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

幼馴染はとても病院嫌い!

ならくま。くん
キャラ文芸
三人は生まれた時からずっと一緒。 虹葉琉衣(にじは るい)はとても臆病で見た目が女の子っぽい整形外科医。口調も女の子っぽいので2人に女の子扱いされる。病院がマジで嫌い。ただ仕事モードに入るとてきぱき働く。病弱で持病を持っていてでもその薬がすごく苦手 氷川蓮(ひかわ れん)は琉衣の主治医。とてもイケメンで優しい小児科医。けっこうSなので幼馴染の反応を楽しみにしている。ただあまりにも琉衣がごねるととても怒る。 佐久間彩斗(さくま あやと)は小児科の看護師をしている優しい仕事ができるイケメン。琉衣のことを子供扱いする。二人と幼馴染。 病院の院長が蓮でこの病院には整形外科と小児科しかない 家は病院とつながっている。

神竜に丸呑みされたオッサン、生きるために竜肉食べてたらリザードマンになってた

空松蓮司
ファンタジー
A級パーティに荷物持ちとして参加していたオッサン、ダンザはある日パーティのリーダーであるザイロスに囮にされ、神竜に丸呑みされる。 神竜の中は食料も水も何もない。あるのは薄ピンク色の壁……神竜の肉壁だけだ。だからダンザは肉壁から剝ぎ取った神竜の肉で腹を満たし、剥ぎ取る際に噴き出してきた神竜の血で喉を潤した。そうやって神竜の中で過ごすこと189日……彼の体はリザードマンになっていた。 しかもどうやらただのリザードマンではないらしく、その鱗は神竜の鱗、その血液は神竜の血液、その眼は神竜の眼と同等のモノになっていた。ダンザは異形の体に戸惑いつつも、幼き頃から欲していた『強さ』を手に入れたことを喜び、それを正しく使おうと誓った。 さぁ始めよう。ずっと憧れていた英雄譚を。 ……主人公はリザードマンだけどね。

追憶の剣聖姫〜剣導部外伝〜

九重死処/shiori
キャラ文芸
脅威の戦跡を刻む神住の原点のお話 本編では語られない神住の秘密が明らかに――

Sonora 【ソノラ】

キャラ文芸
フランスのパリ8区。 凱旋門やシャンゼリゼ通りなどを有する大都市に、姉弟で経営をする花屋がある。 ベアトリス・ブーケとシャルル・ブーケのふたりが経営する店の名は<ソノラ>、悩みを抱えた人々を花で癒す、小さな花屋。 そこへピアニストを諦めた少女ベルが来店する。 心を癒す、胎動の始まり。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。

彩世幻夜
恋愛
 エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。  壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。  もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。  これはそんな平穏(……?)な日常の物語。  2021/02/27 完結

ギリギリセーフ(?)な配信活動~アーカイブが残らなかったらごめんなさい~

ありきた
キャラ文芸
Vtuberとして活動中の一角ユニコは、同期にして最愛の恋人である闇神ミミと同棲生活を送っている。 日々楽しく配信活動を行う中、たまにエッチな発言が飛び出てしまうことも……。 カクヨム、ノベルアップ+、小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...