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第三幕

親だって散々誰かの力を借りて、どこかの誰かが用意してくれたものを便利に利用して生きてきたのに、子供に対して

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『最近さ、いや、最近ってことはなくて実はずっと昔から言われてきたことかもしれないけど、子供が親に対して、『嫌なら生むな!』的なことを言ったりするらしいんだけど、私はむしろ、『言われて当然じゃないかな』としか思わないんだ。

だって、子供を生んだのは紛れもなく親の勝手なんだからさ。

私は、もし、悠里ユーリ安和アンナ椿つばきにそんなこと言われたってどうってことないよ。確かにいい気はしなくても、立ち直れないほどじゃない。

それどころか、『嫌じゃないから産んだ!』って躊躇なく言い返せるし。

そんな風に言われて大きなショックを受けるのなら、それは図星だからじゃないの?

それか、『ここまで育ててやったのに!』みたいに思ってるか。

私はどっちも当てはまらないからね。

言われていい気はしないにしても、ショックというよりはむしろ、『何があったの?』ってそっちの方が気になる。そんなことを言わずにいられないような状況があるのなら、一緒に解決したいしさ。

だって、ホントに何度も何度も言うけど、私の勝手でこの世に送り出したんだから。この大変な世界に、本人の承諾もなく、無断で、一方的に送り出したんだよ。

ヒドイよね。

そんなヒドイことした上に、何か辛いことがあっても、『知るか! メンドクサイ! お前が勝手に解決しろ!』とか、あんまりにもあんまりってもんじゃないの?

何もかも親の方で片付けちゃうのはさすがに違うと私も思うけどさ、子供の力じゃどうにもならないことを放っておくってのは、さすがにおかしいと思うんだ。

人間はさ、誰だって自分一人の力だけで生きてるわけじゃないんだ。『自分の力だけで何でも解決してきた!』って思ってる人もいるかもだけど、それは物事を客観的に見てない証拠だし、何より、見えないところで力になってくれてた人達に対する侮辱じゃないかな? 『異世界に行って現代の知識を使って無双する』
みたいな話だって、結局、その<現代の知識>を自分にもたらしてくれたのは誰なの? って話だよね。自分が発見して構築してきたものじゃないよね? どこかの誰かが積み上げてきてくれたものを利用させてもらってるだけだよね?

親だって散々誰かの力を借りて、どこかの誰かが用意してくれたものを便利に利用して生きてきたのに、子供に対して、『自分の力だけで何とかしろ!』は、やっぱり違うよねえ。

子供がさ、親に対して、『嫌なら生むな!』とか言わずにいられないってのは、やっぱ、相当だと思うんだよ。相当な不信感が親に対してあるんだと思う。

そんなことを言う子供に対して、『親の所為にするな!』って言うんなら、子供からの信頼を勝ち得ていない親の側の怠慢を、『子供の所為にするな!』って言われなきゃおかしいよね』



アオの言うとおり、悠里達の親である僕自身、自分以外のたくさんの誰かの力を借りて生きてきた。その僕が悠里達に、

『自分の力だけで解決しろ』

とは言えないな。

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