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第三幕

たぶん、<大変じゃない世の中>なんて、人類の歴史上、ほとんどなかったんじゃないかな。<バブル>の頃だって、多くの人は

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『現実と創作の区別を付けられるように自分の子供を育てないで創作の方を規制するっていうのは、マジで、<親の側の怠慢>だと私は思ってる。

そういう形で、『自分に都合の悪いものを攻撃して潰してしまえばいい』っていう考えは、すごく危険だよ。

だって、その考え方を使って<自分の思う正義>を他人に押し付けようとするのは、決して、<自分にとって都合のいい人達>だけじゃないからね? 自分の思う正義とは別の正義を信じる人達だってそのやり方をしてくる可能性だってある、どころか、実際にもうそれは行われてるじゃん。創作の表現にケチをつけて潰そうとするってのがさ。

私はそんなこと言われたって右から左に聞き流せるけど、創作者の人の中にはそれができない人もいると思う。

ううん、創作者だけじゃないな。出版社とかの企業だと、なおさらその手の<圧力>は無視できないし、できてないよね。

このままだと、<石>どころか<ぎょく>が生まれる素地まで失われちゃうかもしれない。

まあ、そういう面については、歴史上でもやたらと支配側が厳しく規制したりって時代はあったと思うけど、それでもどっこいアングラに潜ってでも生き延びてっていうのはあったけどさ。

しかも、抑圧されれば抑圧されるほど、やがてそれに抵抗するようにもなる。

単に『歴史は繰り返される』ってのをやってるだけかもしれないけど。

ただ、やっぱり、いい気はしないんだよね。創作に関わる者としては。

<配慮>は必要だと思う。だけど、自分達が今まで抑圧される側だったからって今度は抑圧する側に回ろうとすれば、それは結局、また、抑圧された側の<爆発>を誘発するんだと思う。

加えて、『抑圧されてきた鬱憤を晴らすかのように自分達の<正義>を振りかざして世の中を変えてしまおうとする』というのも、<復讐>の一種だよね。『やられたらやり返す』の精神だよね。

それを肯定してきた結果がこれだよ。

私はその事実と向き合わなきゃいけないと思ってる。

これからいろいろ大変になっていくかもしれない。

だけど、たぶん、<大変じゃない世の中>なんて、人類の歴史上、ほとんどなかったんじゃないかな。<バブル>の頃だって、多くの人は浮かれてたとしても、やっぱりその陰で辛い思いをしてた人もいるだろうし。

で、何度も言うけど、こんな大変な世の中にみんなを送り出す決心をしたのは、決断をしたのは、まぎれもなく私なんだ。だから私には、みんなを幸せにする義務がある。

ううん、正確には、<幸せを自分の手で作り出す方法を知ってもらう義務>かな。『生まれてきて良かった』って思ってもらえるようにしなくちゃ、恨まれたって当然だと思うんだ』



そうだね。吸血鬼である僕にはとても多くの時間があるけど、アオは、おそらく子供達よりは先に亡くなる。だから、<幸せを自分の手で作り出す方法>を知ってもらう必要があるんだ。

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