上 下
555 / 571
第三幕

人を育てるってのはね、時間が掛かるの。一年二年で本当のことは分からない。その人に何ができて何ができないかなんて、分からないんだよ

しおりを挟む
『これも何度も言うことだけど、私も出版業界についてはいろいろと思うところもあるんだよ。だけど、さくらが私の不平不満にちゃんと向き合ってくれたから、正直、気分的には納まってる状態なんだよね。

でもまあ、一番の不満が、『二言目には『読者のため』とか言うけど、実際には金のためでしょうが!!』っていうのだったんだよね。

だってさあ、本当に『読者のため』っていうのなら、たとえ一人でも読んでくれる読者がいるなら打ち切りとかするのおかしいじゃん? それなのに実際には、採算が取れないと見るや切り捨てるわけでしょ? つまり、どんなに『読者のため』とか綺麗事言ってたって、『利益 > 読者』ってことじゃん。

とは言え、私だって仮にも社会人のはしくれだから分かってはいるんだよ。出版社だって慈善事業でやってるわけじゃない。利益を上げなきゃ企業としては成立しないっていうのはさ。だから利益を優先するのは仕方ないって。

でも、『それだったら最初からそう言いなさいよ』とは思っちゃうんだよね。綺麗事で取り繕わないでさ。

もっとも、中には『読者のため』って言った方がやる気が出る作家さんもいるかもだから、そういう作家さんを乗せるための<方便>としてはアリかもしれない。

別に、そういう時にまで『読者のためにとか言うな!』とは言わないよ。

ただ、いくら利益のためだからって、WEBで作品を発表してる人達の中で固定ファンがついてそうなのをちょいちょいとつまんでデビューさせて、でもロクに育てようともしないで思ったほど売れなかったら『用無し』とばかりに飼い殺しにするようなのは、私は、創作に関わる者としては自分で自分の首を絞めるような行為だと感じてて、今でも快く思ってない。

私はたまたま先に同人作家として食べていけるくらいまでなってたから、たとえ商業プロじゃなくなったってそんなに困らないと思うけど、てか、ミハエルがまあ金融資産の運用益で家族が食べていける程度には儲けてるからそれこそ収入とかの面じゃ何にも心配してないけど、プロを夢見て頑張ってる人達を、促成栽培よろしくお手軽にデビューさせて『使えない』と見るや捨てるのはやめてほしいと思ってる。

人を育てるってのはね、時間が掛かるの。一年二年で本当のことは分からない。その人に何ができて何ができないかなんて、分からないんだよ。

そうやって使い潰された人の中にも、ひょっとしたら、芽が出るのに時間はかかるけどいいものを作れる人もいたかもしれない。なのに使い捨てられて筆を折っちゃった人もいたかもしれない。

今の出版業界のそういうところが批判されてるように思うんだけど、なんて言うか、馬耳東風なんだよね。

大人のそういう姿、すっごく子供には悪影響なんだけどな。

子供って、不思議と大人の見倣ってほしくない部分ほど見倣う傾向があるしさ』



そうだね。『綺麗事で表向きだけは繕っておきながらその実態は』というのは、子供にも見透かされるからね。

そうなるともう、信頼してもらえない。

それはとても残念なことだと僕も感じるよ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

魔法少女はそこにいる。

五月七日ヤマネコ
キャラ文芸
ある時、突如大勢の魔法少女がこの世界、日本へと押し寄せてきた。 自衛隊の対魔法少女特殊戦術部隊が応戦する。 魔法少女たちの目的とは? そしてその数日前、高校生イクローの前に一人の魔法少女が現れる。 彼女、キルカはイクローと結婚するためにやってきたと言う。 彼女とその仲間たちと共にイクローは否応なしに戦いに巻き込まれていく。 呑気なのかハードなのかよくわからない謎の多重構造を持つ作品です(笑) お楽しみください!

カフェバー「ムーンサイド」~祓い屋アシスタント奮闘記~

みつなつ
キャラ文芸
大学生の俺は、まかない飯が絶品のカフェバー「ムーンサイド」でバイトをしている。 ある日特別客としてやってきたダンディ紳士……彼は店長の副業『祓い屋』の依頼人だった! お祓いに悪戦苦闘する店長を見かねた俺は、思わず『お手伝い』してしまう。 全く霊感のない俺は霊からの攻撃を感じることなく、あっさり悪霊を封印してしまった。 「霊感がないって一種の才能なのかも知れないね」と店長に誘われ、祓い屋のアシスタントになった俺は、店長と共に様々な怪奇現象に立ち向かうことになる。 呪われようと祟られようと全くノーダメージという特異体質を活かして余裕の『お仕事』……かと思いきや、何故か毎回メンタルも体力もぎりぎりで苦労の連続! これは、霊力も霊感もないただのアシスタントの俺が、日々祓い屋に寄せられる依頼と格闘する汗と涙の物語である。 ★表紙イラスト・挿絵はイラストレーターの夜市様にお願いしています。 ★この物語はフィクションです。実際の事件や団体、場所、個人などとはいっさい関係ありません。宗教やそれにともなう術式、伝承、神話などについては、一部独自の解釈が含まれます。 ★この作品は「小説家になろう」と「ノベルアップ+」にも掲載しています。 ★R-15は保険です。

順応力が高すぎる男子高校生がTSした場合

m-kawa
キャラ文芸
 ある日リビングでテレビを見ていると突然の睡魔に襲われて眠ってしまったんだが、ふと目が覚めると……、女の子になっていた!  だがしかし、そんな五十嵐圭一はとても順応力が高かったのだ。あっさりと受け入れた圭一は、幼馴染の真鍋佳織にこの先どうすればいいか協力を要請する。  が、戸惑うのは幼馴染である真鍋佳織ばかりだ。  服装しかり、トイレや風呂しかり、学校生活しかり。  女体化による葛藤? アイデンティティの崩壊?  そんなものは存在しないのです。  我が道を行く主人公・圭一と、戸惑いツッコミを入れるしかない幼馴染・佳織が織りなす学園コメディ! ※R15は念のため

理容師・田中の事件記録【シリーズ】

S.H.L
キャラ文芸
床屋の店主である田中が逮捕される物語

朔夜蒼紗の大学生活④~別れを惜しむ狼は鬼と対峙する~

折原さゆみ
キャラ文芸
朔夜蒼紗(さくやあおさ)はこの春、大学2年生となった。今年こそは、平和な日常を過ごしたいと意気込むが、彼女にそんな日常は訪れることはない。 「蒼紗さん、私のサークルに新しい子が入りました!」 「鬼崎美瑠(おにざきみる)です」 「蒼紗さん、僕も大学に入学することになりました、七尾(ななお)です!」 大学2年生となり、新入生が入学するのは当然だ。しかし、個性豊かな面々が蒼紗の周りに集まってくる。彼女と一緒に居る綾崎の所属するサークルに入った謎の新入生。蒼紗に興味を持っているようで。 さらには、春休みに出会った、九尾(きゅうび)の元眷属のケモミミ少年もなぜか、大学に通うことになっていた。 「紅犬史(くれないけんし)です。よろしくお願いします」 蒼紗がアルバイトをしている塾にも新しい生徒が入ってきた。この塾にも今年も興味深い生徒が入学してきて。 さらには、彼女の家に居候している狼貴(こうき)君と翼(つばさ)君を狙う輩も現れて。アルバイト先の上司、死神の車坂(くるまざか)の様子もおかしいようだ。 大学2年生になっても、彼女の日常は平穏とは言い難いが、今回はどのような騒動に巻き込まれるのだろうか。 朔夜蒼紗の大学生活4作目になります。引き続き、朔夜蒼紗たちをよろしくお願いします。

腐りかけの果実

しゃむしぇる
ファンタジー
 時は現代、西暦2085年  突如として蔓延した凶悪な疫病により世界各国にて大規模なロックダウンや物流の制限などが行われ、経済難の数か国では危機的な食糧難に陥っていた。  食糧難に陥った国は自国での食料の生産が追い付かず、輸入にも頼れないため最終手段として隣接している国へと進軍し食料を奪い取るという手段に出始める。その結果世界各地で戦争が勃発していた。  その戦争に身を投じ、クライアントの依頼をこなす二人の傭兵エリーとメイは、ある時日本政府から「吸血鬼」と呼称される者の確保を依頼される。  そのことをきっかけに二人は水面下で動く異形の者たちと相対してゆくことになるのだった。 ※この作品は「カクヨム」様および「小説家になろう」様でも投稿しています。 ―連載中―

処理中です...