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第三幕

人を育てるってのはね、時間が掛かるの。一年二年で本当のことは分からない。その人に何ができて何ができないかなんて、分からないんだよ

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『これも何度も言うことだけど、私も出版業界についてはいろいろと思うところもあるんだよ。だけど、さくらが私の不平不満にちゃんと向き合ってくれたから、正直、気分的には納まってる状態なんだよね。

でもまあ、一番の不満が、『二言目には『読者のため』とか言うけど、実際には金のためでしょうが!!』っていうのだったんだよね。

だってさあ、本当に『読者のため』っていうのなら、たとえ一人でも読んでくれる読者がいるなら打ち切りとかするのおかしいじゃん? それなのに実際には、採算が取れないと見るや切り捨てるわけでしょ? つまり、どんなに『読者のため』とか綺麗事言ってたって、『利益 > 読者』ってことじゃん。

とは言え、私だって仮にも社会人のはしくれだから分かってはいるんだよ。出版社だって慈善事業でやってるわけじゃない。利益を上げなきゃ企業としては成立しないっていうのはさ。だから利益を優先するのは仕方ないって。

でも、『それだったら最初からそう言いなさいよ』とは思っちゃうんだよね。綺麗事で取り繕わないでさ。

もっとも、中には『読者のため』って言った方がやる気が出る作家さんもいるかもだから、そういう作家さんを乗せるための<方便>としてはアリかもしれない。

別に、そういう時にまで『読者のためにとか言うな!』とは言わないよ。

ただ、いくら利益のためだからって、WEBで作品を発表してる人達の中で固定ファンがついてそうなのをちょいちょいとつまんでデビューさせて、でもロクに育てようともしないで思ったほど売れなかったら『用無し』とばかりに飼い殺しにするようなのは、私は、創作に関わる者としては自分で自分の首を絞めるような行為だと感じてて、今でも快く思ってない。

私はたまたま先に同人作家として食べていけるくらいまでなってたから、たとえ商業プロじゃなくなったってそんなに困らないと思うけど、てか、ミハエルがまあ金融資産の運用益で家族が食べていける程度には儲けてるからそれこそ収入とかの面じゃ何にも心配してないけど、プロを夢見て頑張ってる人達を、促成栽培よろしくお手軽にデビューさせて『使えない』と見るや捨てるのはやめてほしいと思ってる。

人を育てるってのはね、時間が掛かるの。一年二年で本当のことは分からない。その人に何ができて何ができないかなんて、分からないんだよ。

そうやって使い潰された人の中にも、ひょっとしたら、芽が出るのに時間はかかるけどいいものを作れる人もいたかもしれない。なのに使い捨てられて筆を折っちゃった人もいたかもしれない。

今の出版業界のそういうところが批判されてるように思うんだけど、なんて言うか、馬耳東風なんだよね。

大人のそういう姿、すっごく子供には悪影響なんだけどな。

子供って、不思議と大人の見倣ってほしくない部分ほど見倣う傾向があるしさ』



そうだね。『綺麗事で表向きだけは繕っておきながらその実態は』というのは、子供にも見透かされるからね。

そうなるともう、信頼してもらえない。

それはとても残念なことだと僕も感じるよ。

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