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第三幕

結局、『類は友を呼ぶ』から、そうじゃない人のところには近付いてくれない。ううん、近くにいても自分が気付かないんだよ。他人を平気で

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『私達は、自分と、ミハエルと、悠里ユーリ安和アンナ椿つばきと、さくら達という小さな集団だけで、ある種の<コミュニティ>を作ってることになると思う。

血の繋がりはない二つの<世帯>ではあるけど、まあ、それ自体が<家族>みたいなものだよね。

その中でお互いに力になって助け合って生きてる。

はっきり言って私にとっては、それでもう十分。むしろそれ以上の何を求めればいいのかが分からない。

もちろん、悠里や安和や椿が自分で新しくコミュニティを作るんならそれは好きにしてもらっていいけど、私としては、普通に生活できるだけの収入があって、私を一人の個人として、一つの人格として、ちゃんと受け止めてくれるミハエルやさくらがいて、悠里や安和や椿やがいて、あきら恵莉花えりか秋生あきおがいて、他に何が必要?

もしかしたら『そんな夫とか友人とか、見付けられるわけない!!』みたいなことを言う人もいるかもだけど、たぶんいるけど、そんなことを言う人だから見付けられないんだよね。

それに、ミハエルやさくらみたいな人は世の中にはそれなりにいるんだよ。

結局、『類は友を呼ぶ』から、そうじゃない人のところには近付いてくれない。ううん、近くにいても自分が気付かないんだよ。他人を平気で傷付けるような人は、そうじゃない人がいることが信じられないからさ。

他人を平然と罵れる人の傍には、同じように人を罵れる人しか残らないんだ。

他人を傷付けることをやめられないのなら、罵ることをやめられないのなら、それは自分自身の問題だよね。『相手の方がやめないからだ!』って言うのなら、それ、『他人の所為』にしてるよね?

他人なんか関係ないよ。自分がやめるかやめないか。それだけの話。

私の両親や兄はそれをやめられなかったから、今、大変なことになってる。それでもあの人達は他人を傷付けることも罵ることもやめられない。それが自分達の今の状況を招いてることを理解できないから。そして、『傷付けられてるのは、被害者は、自分達の側だ!』だと思ってるから。『自分達は傷付けようとしてくる連中から身を守ってるだけだ!!』だと思ってるから。

要するに、『相手の所為』にしてるんだよ。自分に原因があると決して認めようとしない。『先にやめるべきは相手の方だ!!』って思ってるからやめられない。

そう考えるとなんだか憐れでさ。

憎んでるはずなんだけど、『死ぬまで許さない!!』と思ってるんだけど、私が何もしなくても、あの人達は勝手に不幸になっていく。私が得られた<平穏>を、あの人達は決して手に入れることができない。

ホント、あの人達の人生ってなんだったんだろうな。

家畜同然に蔑んでいた娘が手に入れた平穏を得ることができないなんてさ。

それでもきっとあの人達は、自分達が不幸だということ自体を認めないだろうな……

いくつもの裁判を抱えて、心が休まる時のない今のどこが『不幸じゃない』のか、私にはまったく分からないけどね』



<ある種のコミュニティ>

確かにそうだね。僕とアオと悠里達とさくら達とで作り上げてるそれは、コミュニティなんだ。

僕達が生きていくための、最小単位のコミュニティ。

それがあれば、僕達はそれ以外の誰かを当てにして生きる必要がない。

そういう集まりなんだ。

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