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第三幕

『フィクションは現実とは違う』っていう現実と直面できれば、フィクションの<嘘>をいちいち気にする必要もなくなるしさ。『現実と違ってて

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『でもね、『現実を見る』ことと、『フィクションをフィクションとして楽しむ』ことは、決して相反することじゃないと私は思ってる。むしろ現実を見られるからこそ、フィクションを素直に楽しめるんじゃないかって思うんだ。

だってそうじゃん? 『フィクションは現実とは違う』っていう現実と直面できれば、フィクションの<嘘>をいちいち気にする必要もなくなるしさ。『現実と違ってて当然。だってそれはフィクションだから』って思えるじゃん。

そして、『作られるフィクションが全て自分の好みに合わせて作られるわけじゃない』っていう現実と向き合えてれば、いちいち自分の好みに合わないフィクションが作られてることにキレる必要ないし。

悠里ユーリ安和アンナ椿つばきも、それは分かってくれてるよね? それが分かってれば、フィクションはフィクションとして現実とは切り離して楽しんでるし、自分の好みに合わない作品だと思えばもうその時点で見ない。

だけどそれができない人もいる。それはなぜ?

誰かが教えてくれなかったから?

じゃあ、その<教えてくれなかった誰か>は、誰?

普通に考えたら<親>だよね?

もしかすると、『親は昔はアニメとか見てなかったから、分かるわけないだろ!』とか言うかもしれないけど、今、七十代になってる<団塊の世代>でさえ、映画を見たりテレビでドラマを見たりして、日常的にフィクションと触れてきてるのに、その理屈は通じないよね。

しかも、もう、物心付いた時から普通にテレビでアニメがやってた世代だってすでに五十代のはずだよ? 普通に成人してる子供がいておかしくない年代だから、今の十代二十代、場合によっては三十代の人らの親だったりするじゃん?

それでどうして、自分の子供に、『フィクションと現実は違う』って教えられないのかが謎なんだよ。

とか、こういう言い方をすると、『馬鹿にしてんのか!?』みたいにキレる人がいるんだけど、単純に疑問なだけだよ。『どうして教えられないの?』ってさ。

そして、親が教えなかったから子供が他人様に迷惑掛けてるんだけど、それについてはどう思ってんのかな? って思うのよ。

<批判>と<侮辱>の区別も付けられないのが好き勝手やってることとかについてさ。

しかも中には大きな事件さえ起こしたのもいる。

テレビ番組の内容を真に受けて他人を死ぬまで追い詰めたのもいる。

実際に人の命が失われてんのよ? どうしてそれを真剣に考えられないの? 『自分には関係ない』ってことなのかなぁ……』



アオは、悲しそうにそう言った。でもそれは他人への同情じゃないことを僕は知っている。

それはあくまで、悠里達がもし、他人を傷付けたりしたらと考えると悲しいというだけなんだ。

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